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67話 蓮介

俺はタバコに火をつけて、マンションを見上げた。

頼介と将太の部屋は、その最上階にある。


先日、初めてその部屋を訪れて、2人が充分すぎる程、安定した暮らしをしている事を知り、心底、胸を撫で下ろした。


そんな矢先だった。

将太がとんでもない事を言い出したのは。


こんな立派な暮らしを、自ら捨てるという。

もう頼介の‘息子’ではいられないからと。


親子の縁なんて、そう簡単に切れるものではない。

例え、殴ろうが…。

例え、殺そうが、だ。


頼介と将太は、今まで暮らしてきた絆がある。

それこそ、俺なんかでは立ち入る隙のないものが。


それがそう簡単に切れると思ったら、大間違いだ。


だが、将太は自分がやってしまった事の責任を、何らかの形で取りたいのだろう。

散々迷ったが、俺も将太の実父である以上、彼に対する責任はある。

将太を受け入れる事にした。


そうして、今、彼を迎えにここまでやって来た。


「本当にいいのか?」

俺は再度確認した。

「これで、いいんです。」

隠しきれない寂しさを滲ませながら、それでも彼はそう言った。

「俺の稼ぎじゃ、大学なんて行かせてやれないぜ?」

情けない事に、これは脅しではない。

だが、彼は

「構いません。高校もやめて働きます。ただ、行き先が決まるまでの間だけ、置いてください。」

と答えた。


俺は根負けして、彼を俺のねぐらまで案内する事にした。


俺のねぐら…古びた6畳一間のアパート。

今までの暮らしからは考えられないだろうが、将太は特に驚きもせずに付いてきた。


「その中に布団が入っている。1組は俺用で、もう1組は来客用だ。来客用のを使っていいぜ。そっちはフカフカし過ぎていて、俺には合わん。」

銀司の布団が、思わぬところで役に立った。


しかし、将太が居たんじゃ、もうここに銀司を呼ぶわけにはいかないな。

まあ、アイツは呼んだわけでもないのに、勝手に来たんだが…。

どっちにしろ、銀司には連絡しないわけにはいかない。


俺は部屋を出て、銀司に電話をした。

『どうした?』

銀司はすぐに電話をとった。

「お前、今日はもう俺の部屋には来ないだろう?」

『あぁ、そのつもりだ。明日は頼介の仕事復帰だからな。いろいろと忙しいんだ。』

「じゃあ、当分こっちには来るな。今日から将太と暮らす事になった。」


『はあぁぁ!???』


仰天した銀司にこれまでの経緯を説明し、何とか納得させた。

将太は、頼介には何も言わないでほしいと言っていたが、これで銀司から頼介にも伝わるだろう。

こっちにはこっちの事情があるし、流石に行方知れずのままにしておくわけにもいかないから、こればっかりは仕方ない。


タバコに火をつけ、空を見上げた。

まさかこんな形で、将太と暮らす事になるとは、思ってもみなかった。

生まれてからずっと…母親の律子が死んでからでさえ、放っておいた子供だ。

今回だって、俺を頼ったのは、単に他に行く当てがなかったからだろう。

深い意味はない。


だが、「恨んではいない」と言ってもらえるだけで、奇跡に近い事だ。


「今の俺にできる事はやってやるさ。」


そう呟いて、タバコの火を消した。

そうして、扉を開ける。


そこに、初めての‘父子’の生活が待っている。

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