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66話 将太

俺が大怪我をさせた頼介は、無事に戻ってきた。

当分、1人では動けなさそうだったけれど。


だから、頼介が回復するまでの間だけは、傍に居ようと決めた。

「看病する」なんて、カッコイイ事を言ったけれど、本当は単に俺が一緒に居たいだけだった。

次第に回復していく頼介を見ているのは、当然、嬉しかったんだけれど、同時に寂しかった。

それは、俺が頼介と一緒に居られる時間が、残り少ない事を意味していたからだ。


仕事復帰の前日、俺は思いっきり盛大に祝ってやろうと思って、腕によりをかけて、ご馳走を作った。

頼介に喜んでほしくって。

実際、すごく喜んでくれて、俺は正直、涙が出そうになるのを堪えていた。


食べ終わって、2人で何となくTVを見ていた。

だけど、流石に夜が更けてきて、頼介が「そろそろ寝よ。」と言い出した。


いつものように「おやすみ、将太。」という頼介に、いつものように「おやすみ。」と返した。


だけど、頼介が扉を閉めた時、頼介に聞こえないように「さよなら」を言った。


そう。

もう俺はこの家には居られない。

頼介を親と呼ぶ資格なんてない。


頼介が手術を受けている時から、決めていた。

頼介が無事に帰ってきたら、俺はこの家を出ると。


俺は手早く最小限の身の周りの品をまとめ、リビングまでやってきた。

頼介に置手紙をする。

そして、頼介に持たせてもらっていたスマホと、この家の鍵を一緒に置いて、玄関を開けた。


もうこの家に戻る事はない。

そう覚悟を決めて。


マンションのエントランスを出ると、あの人…俺の実の父親がタバコを咥えながら立っていた。


「本当にいいのか?」

あの人は俺に訊いてきた。

「これで、いいんです。」

そう俺は答える。

「俺の稼ぎじゃ、大学なんて行かせてやれないぜ?」

「構いません。高校もやめて働きます。ただ、行き先が決まるまでの間だけ、置いてください。」

あの人は、俺を試すような鋭い視線を向けてきた。


ゾクッとした。

その視線は、歌っている時の頼介に、あまりにも似ていたからだ。


だけど、俺は視線を逸らさなかった。

しばらく見つめ合った後、あの人は根負けしたように視線を外した。


「わかった。付いて来い。俺のねぐらに案内してやる。」

そう言って、あの人は歩き出した。

俺はそれに黙って従った。

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