64話 将太
俺はリビングのソファーに腰をかけ、連絡を待っていた。
頼介の容態を伝えてくるであろうGINJIさんからの連絡を。
静か過ぎる部屋の中、時計の秒針の音が耳をつんざく程、騒がしく聞こえた。
スマホが壊れそうなほどに握りしめ、ただひたすら待つ。
前回、頼介が入院した時もこんな気持ちだった。
だけど、今回、頼介をこんな目に遭わせたのは、他でもないこの俺だ。
苦痛に顔を歪ませながら、血を吐いていた頼介の姿が、目に焼き付いて離れない。
なんで、あんな事してしまったんだろう?
後悔しても後悔しきれない。
ただ、頼介が俺の事を何も考えずに、朝になるまで誰かと飲んでいたのかと思うと、自分ではどうしようもない程、頭に血が上った。
抑えきれなかった。
だからって、親を殴っていいわけじゃない。
そんな事、絶対に許されちゃいけない。
俺は必死で頼介の無事を祈っていた。
俺の事は軽蔑してくれて、構わない。
二度と笑いかけてくれなくて、構わない。
ただ、無事であってほしかった。
そして、俺は決心した。
願掛けと言った方がいいかもしれない。
もし、頼介が無事に帰ってきたら、俺は…。
その時、握りしめていたスマホが鳴った。
GINJIさんからの電話だった。
それは、俺が切望していた知らせだった。
それからしばらくして、頼介は帰ってきた。
GINJIさんとあの人…俺の実の父親に連れられて。
手術直後だというのに、病院は追い出されたらしい。
ヒドイ病院だ。
だけど、マトモな病院に行かせてやれなかったのは、俺の責任だ。
医者よりも病院よりも、自分が憎らしかった。
GINJIさんとあの人は、頼介をベッドまで運んでくれた。
それが済むとあの人は、さっさと帰って行った。
多分、俺と居るのが気まずいんだろう。
だけど、GINJIさんが頼介に気を取られている隙を見て、俺はあの人を追って行き、ある頼み事をした。
あの人はかなり驚いた様子だった。
だけど、否とは言わせなかった。
俺は頼介の部屋に戻った。
枕辺のGINJIさんに見守られて、アイツはウトウトしていた。
だけど、俺が部屋に入ってきて、目が覚めたらしい。
「頼介、ごめん。起こしちゃったな。」
そう言いながら、俺は頼介の側に寄って行った。
「いいよ、そんなの。おいで、将太。」
頼介が俺を手招きする。
GINJIさんが俺と入れ替わるように体を寄せて、場所を空けてくれた。
俺が腰を下ろすと、頼介が腕を伸ばして、俺の頭を撫でてくれた。
いつもなら「子供扱いするな」と怒るところだけれど、俺はその手の感触を噛み締めたくて、目を瞑った。
「俺、大丈夫だからな。将太はもう気にしちゃダメだぞ。」
頼介はそう言って、優しく俺に笑いかけた。
もう笑いかけてなんて、くれないと思った。
だから、それだけで充分だった。




