61話 頼介
春香ちゃんと飲んで、酔い潰れてしまった。
GINJIとの事があって、これからまた元のような関係に戻れるのか不安で、つい飲み過ぎてしまった。
気付いたら、見知らぬ部屋に居た。
狭い6畳一間のアパート。
なんでこんな所に?
と思ったけれど、なんだかどうでも良くなってしまった。
GINJIがまだ俺を許していないというのがわかったから。
でもGINJIは俺を家まで送ってくれた。
多分、酔い潰れた俺を迎えに来たのも、GINJIなんだろう。
何故、あの部屋にいたのかは謎だけど。
送ってくれる間、車の中でもGINJIは何も話さなかった。
こちらから、一生懸命、話しかけようとしたけれど、全くの無視。
本当に悲しくなってしまった。
やっぱり俺はGINJIがいないと、生きていけないと思う。
でも、俺はGINJIに見捨てられたのかな?
家に着いたので、とりあえずGINJIにお礼だけは伝えた。
それに対しても、返事はなく、GINJIは無言で車を発進させた。
俺は溜息を吐きながら、マンションの自分の部屋へと帰って行った。
玄関を開けると、人の気配を感じた。
この時間は、将太は学校に行っているはず。
不思議に思って、リビングに行くと、やはり将太がいた。
しかも、かなり怒っているようだった。
俺は意味がわからなかった。
今までだって、朝帰りは当たり前のようにしていたし、その度にいちいち連絡を入れていたわけではない。
それでも、将太は自分のペースで、メシを食ったり、勉強したり、寝たりしていたんだ。
だけど、スマホを確認してみて、驚いた。
将太からの着信が、100件近く入っている。
コイツ、不安だったんだ。
俺がまた事故にあったんじゃないかと。
このまま帰らないんじゃないかと。
俺はなんて事をしてしまったんだろう?
一言、連絡入れれば済む事だったのに。
将太の気持ちを全然考えていなかった。
「…。ごめん。」
俺は絞り出すような声で謝った。
でも、将太は不安が沸点を超えて、怒りに変換されたらしい。
将太に初めて殴られた。
俺はあえて抵抗しなかった。
どんなに殴られても良いから、将太の気持ちを受け止めようと思った。
だけど、殴られているうちに、気が遠くなってきた。
身体も充分に出来上がってきている17の息子の腕力を舐めていた。
気付いた時には、真っ青になった将太が俺を抱き抱えていた。
また、将太を泣かせてしまった…。
申し訳なくて、痛む腕を伸ばして、将太の頭を撫でてやった。
「病院に行こう!」
と言われたが、それに従うわけにはいかない。
とにかく寝て治そうと思って、立ち上がろうとしたが、肋骨のあたりに鋭い痛みが走って、上手く立てなかった。
将太が慌てて支えてくれた。
将太に俺の部屋まで連れてきてもらい、ベッドに横になった。
でも、全身がバラバラになったような痛みに耐えきれなかった。
そう思っていると、1度部屋から出ていた将太が戻ってきた。
俺の枕元にやって来て、泣きながら俺の手を握る。
「今回は俺が悪かった…。将太のせいじゃないよ。」
俺はそう言ったが、
「頼介は悪くない。親に手をあげるなんて、最低だ。」
そう言って、震えていた。
しばらくそのままだったが、例の肋骨のあたりの痛みは、どんどん酷くなる。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「GINJIさんだ!」
将太は縋るような声を出し、玄関にとんでいった。
すぐにGINJIは将太と共に俺の部屋にやってきた。
俺は「ごめん…。」と謝ったが、GINJIはそれどころではないという感じだった。
「どこか痛むのか?」
GINJIは訊いてきた。
そこでさっきから、肋骨のあたりに痛みがあって、動けない事を正直に話した。
実際、話をするだけでも苦しい。
「今のまま、放っておく事は出来ない。医者を呼ぶぞ。」
GINJIはそう言ったが、
「ダメだよ!殴られた怪我だってバレたら、将太が補導されちゃうかもしれない。医者は嫌だ!」
と懇願した。
俺のせいで、将太が罪に問われるなんて、絶対に嫌だ。
「大丈夫だ。俺達の業界には裏の医者との繋がりもある。そういう医者を呼ぼう。」
そう言って、有無を言わさず。GINJIはどこかに電話をした。
30分くらいして、その医者はやってきた。
まともに身動きできない俺を見て、
「派手にやられたな。」
と、一言。
「一番痛むのはここか?」
医者は肋骨の辺りを押した。
「痛っ!」
俺は我慢できずに声をあげた。
「ふむ。おそらく肋骨は折れているぞ。」
医者はそう言った。
レントゲンを撮ったわけではないので、詳しい事は言えないみたいだけど。
将太は青い顔をしながら、医者の話を聞いていた。
折れた肋骨が肺に刺さったりすると大変なので、とにかく絶対安静を言い渡された。
後は痛み止めを処方して、その医者は帰って行った。
GINJIもその後、すぐに帰った。
仕事の調整をしなければいけないんだろう。
復帰したばかりだというのに、本当に申し訳ない。
将太は俺の手を握りながら、ずっと泣き続けていた。
悪いのは、俺なのに。
「俺は大丈夫だから。将太、泣くな。」
俺はただ、そんな言葉を繰り返していた。




