5話 将太
飯を食い終わったオヤジは、一生懸命尻尾を振って、何かを要求している。
「デザート?」
「そう」
「冷蔵庫に西瓜が切ってある」
そう言ってやると、オヤジはピューッと、台所に飛んでいった。
この姿…ファンが見たら、なんと言うだろう。
RAISUKEは、本名も素顔も公開していない。俺の周りにも、R-GUNのRAISUKEのファンだと言うヤツは結構いるが、誰もうちのオヤジだとは思っていない。そもそも、友人達には、俺は‘兄’と2人暮らしだという事にしてある。
「なあ、頼介。ちょっと真面目な話なんだけど」
「ん?」
西瓜を頬張るオヤジに真面目な話をするのは気が引けるが、この男は食っている時が、一番機嫌が良い。
「俺の進路。今のままだと、志望校危ないらしいんだよ」
「志望校って、どこだったっけ?」
「××大の経済」
「経済学なんて、興味あるのか?」
「就職率がイイんだよ。あそこの経済は」
「まあ、どこ行ってもいいぞ」
「だけど、ちょっと偏差値が足りないらしいんだ。それで、担任が三者面談やろうって、言うんだけど」
「おう、行ってやる。行ってやる」
「ちがう!頼介じゃ、受験の話されても意味わからないだろ。そうじゃなくて、佐久間さんに来てもらいたいんだ」
佐久間さんとは、RAISUKEのマネージャーだ。結構、有名な大学卒で、年齢から言っても、俺の父親と言って不思議はない。俺も可愛がってもらっている。
出来れば、このオヤジに学校には来てもらいたくはない。RAISUKEと同一人物だとは担任も知らないが、普段であっても、このオヤジは妙に目立つからだ。
「えー!俺が行きたいなぁ。三者面談なんて、楽しそうじゃん」
「全然、楽しくねえよ!」
尻尾がしょんぼりと垂れるのが、見えた気がする。
「どうしても、俺じゃダメなのか?」
ちょっと可哀相か?否、ここは俺の平穏な学校生活を守るためだ。
「佐久間さんに頼んでくれよ」
「…わかった」
オヤジは、トボトボと自室に引き上げていった。