41話 将太
頼介が事故に遭った。
そして、俺の生い立ちに関する衝撃の事実が明らかになった。
あれから、今日で10日目だ。
若い頼介は、一度意識を取り戻してしまえば、回復も早かった。
3日目には一般病棟に移り、5日目からは食事の制限もなくなった。
「あ、将太!」
病室の扉を開くと、嬉しそうなオヤジの声が響いた。
見えない尻尾を一生懸命振っている。
首を長くして待っていたのは、俺ではなく、俺の持ってくるメシであるという事に、疑う余地はない。
大食らいだから、病院のメシだけでは全然足りず、俺は不足分を補うため、せっせと家で作って運んできているのだ。
「調子はどうなんだよ?」
一応、訊いてみる。
「今日のメシは?」
話が噛み合わない…。
まあ、‘食欲旺盛=元気’と見なす事にした。
俺は家から持ってきた大量のメシを、狭いベッドのテーブルに並べてやった。
オヤジは出したそばから、パクつき始める。
俺は相変わらずの光景をぼんやりと見つめていた。
‘あの人’は、頼介の意識が戻るのを確認すると、さっさと帰ってしまった。
それから一度も見舞いには来ていない。
俺は別にイイんだけれど、頼介はどうだろう?
頼介は目が覚めた時に、二言三言、言葉を交わしただけらしいから、本当はもっとゆっくり会いたいんじゃないかと思う。
なんと言っても、俺を除いては唯一の肉親だし、頼介にとっては親代わりだったらしいし。
‘あの人’も俺がいるせいで気まずくて来られないんだったら、ちょっと可哀相だ。
「なあ、頼介」
いなり寿司を2個同時に頬張るオヤジに話しかける。
「ん?」
「俺、明日からしばらく来ないから」
みるみるオヤジは涙目になる。
「え~!?それじゃあ、明日からメシは!?」
やっぱりそっちの心配か…。
「病院のメシで我慢しろ!そもそも、それで充分栄養がとれるように出来てんだから。どうしても、足りなきゃ他の誰かに差し入れ頼めばイイだろ。俺だって、受験生なんだからそう毎日来ちゃいられないぜ」
「だって、佐久間さんや社長やGINJIもNAOTOもUSHIOも、俺がスケジュールに穴あけたから、お詫びと調整で、無茶苦茶忙しそうなんだもん。マスコミ対策もあるしさ」
RAISUKEは急病で入院した事になっているけれど、詳しい事情は明らかにされていない。
だけど、もしこれが原因で‘RAISUKE=頼介’を嗅ぎつけられたら厄介なんで、そこら辺もいろいろと難しいらしい。
「他にも頼める奴いるだろ?」
「将太のメシが食いたいのに…。」
見えない尻尾が、しゅんと垂れ下がる。
ちょっと可哀相か?
イヤイヤ、そもそもこれはコイツのためなんだ。
「とにかく、明日からは来ないからな」
俺はそう言って、病室を後にした。




