40話 蓮介
頼介との面会が許された。
限られた人数と時間ではあるが。
頼介が育てたという俺の息子…将太が、当然ながら、一番に入った。
その将太は、涙を堪えるような様子で、ICUから出てきた。
そうして、次に指名されたのは銀司だ。
俺は頼介にどんな顔をして会って良いのかわからない。
いくら、頼介が今、意識のない状態だからと言って、顔を合わすのが怖かった。
だから、銀司が俺の方を見た時、思わず、視線を外してしまった。
すると、怒ったように、銀司は俺に冷たい口調で次は自分が頼介に会うと宣言した。
だが、俺も頼介に会いたくないわけではない。
正直言って、将太よりも頼介に会いたかったんだ。
緊急時という事もあるが、将太に会っても、あまり感激とか感慨とか、そういった感情は芽生えなかった。
多分、向こうも同じようなものだろう。
銀司が面会を終えた時、何やらぼんやりとした表情だった。
俺は思い切って、言ってみた。
「次は俺が入りたい」
銀司は面白くなさそうに、言い返してきた。
「さっきは入りたくなさそうだったじゃないか。相変わらず、気が変わるのが早い男だな」
だが、将太が間に入ってくれた。
「この人…は頼介を助けてくれたんですよ。当然の権利ですよ」
将太は、俺の事をなんて呼べば良いのか迷っているような感じだった。
そりゃ、そうだろうな。
俺だって、将太とも将太君とも呼びずらい。
だけど、そのおかげで、次は俺が入る事ができた。
久々に見た頼介の顔は、10年前と変わっていなかった。
もう少し大人っぽくなっていると思っていたんだが、寝顔のせいもあってか、まだ幼さを感じた。
と同時に、この幼さを残した頼介が、立派に将太を育てていた事に驚きを隠せなかった。
「すまない…頼介」
俺は思わず呟いていた。
ふと、頼介の顔が歪んだ。
今まで苦痛を感じている様子はなかったのに。
取り付けられている機械からも、音が鳴り始めた。
「おい!頼介!」
バタバタと医師が入ってくる。
「先生!」
慌てて助けを求めるように医師の顔を見たら、意外に医師はほっとしたような顔をしていた。
「頼介!?」
呼びかけると、ぼんやりと頼介が目を覚ました。
「将太?」
数十秒の時間をおいて、頼介が言葉を発した。
俺の顔を見つめていたが、俺とは違う人物の名前を呼んでいた。
まだ意識がはっきりとしていないのかもしれない。
「違う。俺だ」
俺はできるだけ脅かさないよう、優しくそう言葉をかけた。
「…兄ちゃん?」
「そうだ」
俺達の様子を見ながら、医師が頼介に名前や年齢などを尋ねた。
頼介はその質問に、正確に答える事ができた。
それに俺も医師もほっとして、医師は外の皆にこの事を伝えると言って、出て行った。
俺はまた頼介と2人きりになった。
「どこか痛むか?」
俺は頼介に尋ねた。
「全部痛い…」
「そうか…そりゃそうだろうな」
「兄ちゃん、来てくれたんだ」
「当たり前だろう。お前、もう少しで死ぬところだったんだぞ」
そこまで言うと会話が途切れた。
頼介は喋るのも辛そうだったし、俺も何を喋って良いかわからなかったし。
医師が呼びに来たのを幸いに、俺はICUから出て行った。
だけど、頼介のもとから離れると、気が抜けたように涙が溢れた。
嬉しくて嬉しくて、堪らなかった。




