35話 蓮介
深夜になって、やっと仕事が終わった。
つまらない仕事だ。
こんな年になっても、俺は適当な生き方をしていた。
適当に稼いで、適当に食って、適当に眠る。
そのまま適当に人生は終わっていくだろう。
そんな俺には、かつて捨てたものがある。
弟と、生まれたばかりの子供と、仲間達。
もう会うことはないだろう。
気がかりではあるが、住む世界が違うし、懐かしく思うことさえ、許されない気がして、アイツらのことは、なるべく考えないように生きてきた。
そう、今日までは。
「銀司…か?社長まで…どうしたんですか?」
驚きのあまり、間の抜けた口調になってしまった。
なんでコイツら、こんな時間にこんな所に来たんだ?
「まだ、留守電を聞いていないようだな。単刀直入に言う。頼介が事故に遭った。輸血が必要だが、珍しい型らしい。お前と頼介の血液型は合うのか?」
なんだって!?
「頼介が!?オイ、どういうことだ!?アイツは無事なんだろうな?」
俺は銀司に掴みかかった。
「無事じゃないから、お前のところに来たんだろうが!」
そうか、考えてみれば、そうだな。
などと、納得している場合ではない。
「俺も頼介もAB型のRH-だ。珍しい型だから、何かあった時には、お互いに助け合おうと、昔は話し合っていた」
「じゃあ、今すぐ一緒に来てくれ。わだかまりはあるかもしれないが、今はお前が必要だ」
「わかった」
「但し、ひとつ言っておくことがある。病院には将太くんもいるぞ。お前が実父であることは、たった今、知ったばかりだ」
これもまた驚きだ。
律子が死んだことは知っていたが、それでも俺は将太を引き取らなかった。
酷い父親だと自分でも思う。
多分、施設かどこかで育ったのだと思っていたし、きっと俺に育てられるより、その方が幸せだと思っていた。
「将太くんを育てたのは頼介だ」
「頼介が?でも、律子が亡くなった時、頼介はまだ…」
「17だった!それでも将太くんにとっては、頼介が父親なんだ!お前じゃない!」
信じられない。
頼介のヤツ…本当に俺の代わりをやっていたのか。
「わかった…。‘将太の父親’を助けに行こう」
俺は銀司や社長とともに、頼介と将太の待つ病院へと向かった。




