2話 将太
予備校から帰って、TVをつける。最近、人気を集めている女子アナが、今週のオリコンチャートを発表していた。
「さて、今週の1位はまたしてもこの曲です。さあ、どうぞ!」
ビジュアル系バンドのボーカルの顔が、アップにされた。派手なメイク。派手な衣装。独特の高音ボイスは、ファン達を魅了して止まない。デビューした10年前から、今でも人気絶頂のミュージシャンだ。
そして、次にソファーに目をやる。酔っ払いが寝入っていた。
「おい、オヤジ。頼介!起きろよ!」
俺はソファーを蹴飛ばした。それで目を覚ました酔っ払いは、体を起こして、子供のような顔で欠伸をする。
「よ、将太。おかえり。飯は?」
「マックで済ましてきた」
「じゃあ、俺の飯は?」
「てめえは、飲んできたんじゃねえのかよ?」
「飲んだけど、食ってはいない。腹減ったから、何か作れ」
俺は深いため息をついた。これが、受験生の親の態度だろうか。否、怒るまい。一応はこれでも俺の保護者だ。
そもそも、オヤジは自分で料理が出来ないわけではない。オフクロが死んで、俺がまだ自分で飯を作れなかった頃は、毎日のようにオヤジの手料理を食べていた。だが、俺が飯の作り方を覚えると、あっさりそれは俺の仕事になった。今では、炊事洗濯掃除、何一つやりはしない。
「簡単なものでいいなら、作ってやる。その間に風呂でも入ってこい」
俺はそう言って、オヤジを風呂場に追いやった。