12話 将太
その日の翌日、俺は校門の前で佐久間さんと待ち合わせていた。
「あ、佐久間さん」
「将太君、こんにちは」
「忙しいのに、すみません」
「ホント、忙しいんだよ~。マネージャーはタレントの倍は働いているんだから」
とは言ったが、佐久間さんはニコニコと嫌な顔一つしない。
俺と佐久間さんは連れ立って、校舎の中に入り、教室の前に辿り着いた。
志望校が危なくなって、今日、三者面談となったクラスメイトは数名。俺達の順番はその最後だった。
最後から2番目のヤツらが終わり、俺達の順番がまわってきた。俺と佐久間さんは、教室に入った。担任の三村(40歳独身・多分彼女なし)が、面白くなさそうな顔(いつもの顔)で、座っていた。
「将太の親類の佐久間と申します。いつも将太がお世話になっています」
佐久間さんは丁寧に挨拶をしたが、三村は横柄に頷いただけ。こういうヤツなんだ、三村は。
俺と佐久間さんは席に着くと、いきなり三村はこう切り出した。
「北里の成績はご存知ですか?」
「実はあまり詳しくは知りません。お恥ずかしい事です」
「どん底ですよ。はっきり言って、よくこれで××大志望などと言えたものです。まあ、進学したいなら止めません。今は名前を書いただけで合格できる三流大もありますから。そういうところを志望する事ですな」
そう言われて、佐久間さんはこう切り返した。
「本人の現状からして、目標とするところが高いのはわかりました。ですが、簡単に目標を変えろというより、どんなに厳しくともそれに到達する方法を考えてみる事も大切ではないでしょうか。もし浪人という事になったとしても、将太の保護者はきっと応援してくれると思います。そういう事に拘るタイプではありませんから」
まあ、確かに俺が浪人すると言っても、オヤジが反対したりはしないだろう。というより、大学に行こうが行くまいが、気にしたりはしない。勝手にさせてくれるはずだ。幸い、経済的余裕はある事だし。
そんな事を思っていると、三村がフンと鼻を鳴らした。
「北里の保護者ですか?兄という事ですが、何の仕事をしているのかさえ、家庭調査票に書いてこない。まあ、あの年で弟を養えるほど稼いでいるという事は、どうせいかがわしい仕事でしょう。今日だって、大学受験の意味もわからないから、顔も出せなかったんでしょう。どうせ碌な大学には行っていない、いや失礼、高卒、いや中卒ですかな?まったく、家庭環境が悪い生徒は、成績にすぐ反映されますな」
さすがにこれには俺もカチンときた。
「オイ、みむ…」
と、言いかけた俺を佐久間さんが制する。
「失礼ですが、彼は将太の将来を誰よりも心配しています。本来でしたら、今日も彼が出向くべきだったし、本人もそのつもりだったのですが、仕事の都合で、やむなく私が代理を務めさせていただきました。志望校についてですが、まだ夏休み前ですし、これからの巻き返しも可能かと思います。私は△△大卒ですが、高3の1学期末の偏差値は50を切っていましたよ」
そういうと、もう話は終わったとばかりに、佐久間さんは席を立った。俺もそれに従った。そんなこんなで、険悪なムードのまま、三者面談は終了した。




