第3話 ママ
夕食は以外にも、和食だった。 しっかりゴハンと味噌汁がついていて、白い湯気をたてていた。
「私、和食が一番うまくできるから」
佐奈江さんはいった。
−−かなり旨い。
勇輝にとって、母を除く初めての女性の手作りの料理を口にしたからかもしれないが、何度でも食べたいくらい、勇輝は美味しさをかみしめていた。
「めちゃめちゃ旨いです!」
勇輝が思わず笑顔で言うと、佐奈江は
「ありがとう」とほほえんだ。
勇輝は二人の間に流れる穏やかな空気を満喫しながら味噌汁を飲み込んでいると、その空気を引き裂くような音が鳴り響いた。
勇輝は慌ててポケットを探る。
音の元である携帯の画面を見ると、『自宅』の文字が浮かんでいた。
勇輝は嫌な予感がして、一息ついてから通話ボタンを押した。
「はい、もし−−」
「勇輝?勇輝なのね!?よかったーあんまり遅いから、ママ、警察呼ぶとこだったのよー?」
やっぱり呼ぶ気だったか……。
と思いつつ、母の言葉に疑問を浮かべる。
「でも、連絡いったんだろ?佐奈江さんがしてくれたって言ってたけど…」
「あら、あなた彼女さんのこと、さん付けで呼んでるの?」
「か…彼女!?違う!!」
勇輝はパッと佐奈江に振り向く。
佐奈江は突然目があって、きょとんとしている。
勇輝?と呼び掛けてくる母の声に問い掛ける。
「それ、彼女が言ったのかよ?」 「やっぱり彼女なのね!?よかったわ。あなたにも素敵な人が現れたのね?」 「だから違うっつーの!!代名詞の『彼女』だって…とにかく俺は無事だから心配すんなよ。すぐ帰るから警察だけは呼ばないでくれ…」 「代名詞…?」 「……じゃ」
勇輝は強制的に通話を終了させた。
それから急いで夕飯を掻き込み、佐奈江さんに別れをつげて走って帰った。
訪ねた理由なんて、すっかり忘れていた。