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第1話 夏の休暇の大きな宿題

「あっちぃー…」


思わず声が漏れてしまうほど、今年の夏は暑い。


香上勇輝は吹き出す汗をスポーツタオルで拭いながら、午後になり始めた街をとぼとぼ歩く。      


勇輝が目指しているのはある建物だった。


この町では結構有名なその建物は、勇輝の通う高校から歩くと30分もかかり、勇輝の家からは更に20分も上乗せされる。      


「帰りてぇー。なんで俺が…」          

そう口にすると、余計イライラがつのる。     


ことの起こりは、三日前の終業式だった。     


その日勇輝は浮かれていた。           

理由は単純、明日から素晴らしき夏休みが待っているから、である。     


宿題という忌まわしいものがあるとはいえ、休み明けに行われる学力テストで赤点並の点数だけは免れなければならないとはいえ、毎朝学校へ通うことがないというのは、やはり気持ちが違うのだ。

とてつもなく、軽い。


「じゃ、よろしくな。香上」           「…へ?」       

炎天下を歩くはめになる言葉を、勇輝は聞いていなかった。         


夏休みに想いを馳せていて、まったく気付かなかったのだ。         


今思えばバカらしかった。油断をしていた。    最後の詰めが甘かった。


「今呼びました?」   「ああ呼んだな。先生はメチャクチャ呼んだぞ」  


担任が、俺頑張ったと主張するような顔をした。 



「何度も呼んだのに何度も無視されたよ」     「あっまあそれはすいません。で、何ですか?」  


勇輝は軽く謝ると、聞いた。           

本当は聞きたくなかった。嫌な予感がする。    


「お前が探してきてくれな!」と担任は言って、黒板の白いチョークで書かれた文字列の横をコンと拳で叩く。            

勇輝は文字列を見て、顔をしかめた。       


そこには、

『ダンスパーティに使うよさげな場所を探す係 香上』と書かれている。          


…意味がわからない。              

「何ですかコレ」

「だから……ってお前話聞いてなかったもんな。でも俺はもう断じて説明しないぞ。こんな蒸し暑いとこで時間とってたまるか。沢村に聞いとけ。じゃあ解散!!」        


担任が早々に教室を出ていき、クラスがざわざわし始めたころ、勇輝は沢村に詰め寄った。       


沢村靖志は勇輝にとって、一番気心の知れた友人である。           


「どういうことなんだ!?かなり面倒なことを押しつけられた気がしているのは俺の勘違いか!?」


「いや、お前は間違いなく押しつけられたよ」



可哀相に…とでもいうように、靖志は目を閉じて軽く俯きながら首を左右に振る。


勇輝は、今はもう空っぽになっている、靖志の前の席のイスに逆向きに腰掛けた。


靖志と顔が向き合ったまま、後方にある黒板を親指で示した。



「…あれは何なんだ?」

「夏休み明けにさ、あるだろ?」

「テストかよ?」

「んなわけねぇだろ。お前はテストでダンス踊んのか?」「うっせ……あとは…学祭…?」



靖志がニヤッとする。



「正解。今年の智矢祭のCイベントはダンスパーティだ!!」



靖志がハイタッチを求めてきたが、勇輝はそんな気にはなれない。



「ダンスパーティ!?何故だ!?つうか喜んでるってことはお前まさか…」

「またまた正解だ!なんださえてんじゃん。そのとおり、俺がCFR'sで提案したんだ!!」

「ふっ…!」

ふざけんな!!と勇輝は叫んだ。         


「何考えてんだよ!!…ああそうか。ダンスってあれだろ?ストリートダンスだよな?まさか社交ダンスだなん−−」

「社交ダンスだけど」

まったくふざけている。

勇輝は頭を抱えた。



「…何で社交ダンスやりたがるんだよ。いや、社交ダンスを悪くいってるわけじゃない。やりたい人はやればいいよ。でも一般論で考えろ。全国の高校生にアンケートとったら、社交よりストリートやりてぇってヤツのほうが多いと思わないか?」

「本当にそう思うのか?」


靖志がにんまりしながら言う。



「お前こそよく考えてみろよ。社交ダンスってのはな、いわば中世ヨーロッパの貴族だ。セレブな衣裳きて、美女を踊りに誘うんだ。いいだろ?白馬の王子を夢見てる乙女のためにもなる。

てかモテるぜー貴族演じきれたらさ」

「……CFR'sの他の奴らはいいっていったんだな…“モテる”って所で……」



勇輝は心底呆れながら言った。



こんなに気持ちが落ち込むのは、テストの点が悪いと親を呼ぶと担任に脅されて以来だ。



そして靖志は満面の笑みでいったのだ。



「『お前マジ天才!!』って誉められたくらいだ!!」



そんなこんなで三日後、勇輝はダンスパーティを行える場所を探しに、クーラーの効いたリビングを泣く泣く出てきたのだった。



本当はもっとだらだらと夏休みを満喫してからにしようと思っていたのだが、昨日電話で、『主人は頑固だって噂だぞ?時間がかかるかもな』と遠回しに、早くしろ、と靖志に脅されたので、やってきたのだ。



俺は靖志の部下じゃねぇと思いながらも、なんとCFR'sも生徒会も先生も俺に任せることに同意しているらしい。



つまり勇輝以外にやろうとする人は今後出てこないだろう。



なんたって、面倒くさい。


CFR'シーエフアールズというのは、我らが智矢ちや高校の学祭を計画する組織で、CはCHIYA、FはFESTIVAL、RはREADER、Sは、メンバーは複数いるのでという意味で複数形を表している。



靖志はこのメンバーなのだ。


靖志はお祭りごとが大好きなので、入学すると真っ先に部室に駆け込んだらしい−−。


昨日靖志が電話で言っていた『主人』というのは、これから行く洋館の主人のことで、この洋館を選ぶことになったのは、靖志から勧められたからだった。



ここの洋館の大きさといったら、ベルサイユ宮殿並だ、と靖志は言っていた。



年季を感じさせる重厚感がありながらも、真っ白い壁は今なお健在。

洋館を中心に広がる広大な敷地は綺麗に手入れされていて、これがまたいいんだ。


靖志が興奮した調子なのが、受話器から伝わったものだ。



そんなに思い入れてるなら、自分で行け!といってやったのだが、靖志は、

「だって暑い」とかいって、来る気配がない。



まったく……。     勇輝は塀に右手をつき、やがて背中も合わせた。  


真夏の熱気で暖かさを宿しながらも、コンクリートづくりの塀は、まだひんやりとしていた。      


それが気持ち良くて、その場にしゃがみこんで目を閉じた。                     

アイス食いたい…。   

あー水飲みてぇ…。   訪ねてったら、何だしてくれんのかな…?     ベルサイユなら…紅茶?

……やだな……あちぃ……            

そのまま体が重くなって、ぐらついた。

            

−−気がした−−−。

読んで下さってありがとうございます!!     初めての投稿なのでいろいろ不都合を感じさせてしまうかもしれないですが、頑張って行きますので、これからよろしくお願いします(^O^)/    茉莉

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