幼馴染み
「付き合ってください!」
開いた教室の扉から大きめの声が聞こえた。不用心だな、誰かに聞かれていたらどうするんだ、と僕は教室の外で思う。
もちろん告白されたのは僕じゃない。まぁ検討はついているけど。
そっと覗いてみると、そこには僕の幼馴染みの西嶋遼と、たしか秋村博人とかいった名前のやつがいた。
構図からすると遼が告白されたんだろう。アイツが告白されるのを何度も目撃した、というかそばで見せられ続けた僕としては「またか」という心情だ。そして、答えは決まって、
「その……ごめんなさい。」
いつも通りフッてしまった。秋村はルックス的には悪くないと思うんだけど、遼の好みはよくわからない。
「そっか…ごめん、わすれて!」
苦笑をのこして去って行く秋村は、僕と教室の前ですれ違った。心なしか睨まれた気がするが置いておこう。
「秋村泣いてたぞ。」
僕は教室に入ってすぐにおどけて見せた。遼はそれに苦笑で返す。これもいつものやり取りだ。
「遼ちゃん。見てたの?」
見てたのもなにも急に聞こえたんだ。見ずにはいられないのが人の性だろう。
ちなみにだが僕の名前は遼とかいてりょうと読む。同じ漢字だからって遼は僕に懐いたのだ。
「見たくて見た訳じゃないよ。」
「うん。わかってる。遼ちゃんに見られても大丈夫だし。」
気丈に振る舞っているけど、遼の顔はまだ赤い。そりゃあ大声でコクられれば赤面ものだろう。
「相変わらずお前の好みはよくわかんないな。秋村だって全然良くない?」
「遼ちゃんはいいの、わからなくて。」
遼はそういって自分の机の上に腰かけた。行儀が悪いとか、僕は言えない。なぜって、僕も座ってるから。
「一人くらい付き合ってやったら?」
「私には好きな人いるからいいのっ」
頬を膨らませて反論する遼。モテるだけあって可愛い。こんな遼を見れるのは僕だけだと思うとなんだか嬉しくなるのだけど、それを遼には言えない。てか言いたくない。負けた気がするから。
「遼ちゃんは好きな人居ないの?」
「いるよ。」
遼の問いに短く答える。言う僕もまだ誰とも付き合ったことはない。だって僕には好きな人がいるから。
「誰?」
楽しそうに顔を寄せてくる遼に僕は笑いながら答えてやった。
「遼。」
と。
遼に顔を真っ赤にしながら「嘘ばっかり」と背中を叩かれた。いや、痛い。てか嘘じゃないんだが。まぁ、まだ告白する気がないから別にいいけど。
だけど“まだ”だ。それまで僕らはこのままでいい。
このままで、僕らはまだ幼馴染みのままでいいんだ。あと少し、あと少しの間だけ、僕らはこの関係に溺れる。