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同窓会  作者: 園田 樹乃
1/2

一次会

 Fiftyーfiftyの番外です。

 Fiftyーfiftyのネタばれがあるので読後にどうぞ。

 オレは今日、中学校の同窓会に来ている。


 四十歳の節目(?)だとかで、今回の同窓会は当時の生徒会役員が全員出席するらしい。

 俺たちの代の生徒会は、体育委員長をしていたやつが今では芸能人。そいつは男五人のバンドでキーボードを弾いている。十年ほど前からジワジワ売れていたみたいだけど、ここ二年ぐらいで一気に名前をよく聞くようになった。

 同窓会委員がそいつを客寄せにすることを企画して、本人を含めた生徒会がノッたらしい。


 というわけで、ホテルでの立食形式の同窓会は、結構人数が集まっている。学年の半分以上来てるんじゃないだろうか。先生たちも、三年の担任だった先生は全員出席していた。


「おい、坂下?」

「上野か?」

 会場に入ってウェルカムドリンクのグラスを貰い、壁際で室内を見渡しているオレに声をかけてきたのは、剣道部で一緒だった上野だった。

「久しぶりだな」

「上野は、変わらないな」

「そうか? さすがに腹、出てきたぞ」

 そんなことを言いながら、軽くグラスを合わせる。

「あれ、なんだ?」

 早めに会場に来ていたらしい上野に、入ったときから気になっていたことを尋ねた。

「どれ?」

「あの、妙に人だかりのしている一角」

 囲んでいる人垣より高いところにある顔を見たら、まぁわかる気がするけど。

「ああ、生徒会」

「山岸か」

 芸能人になったかつての同級生は、客寄せの仕事をこなしているようだ。休日にもご苦労サンなことで。

 とりあえず上野と、顧問だった二組の担任のところに行って挨拶をしたところで、会が始まった。


 学年主任の先生の挨拶があって、生徒指導だった一組の担任の乾杯があって。

 あとは三々五々、それぞれが旧友たちと固まって飲み食いをはじめた。


 三年のとき同じクラスだった一組の連中としゃべっていると、横に背の高い人影が立った。

「坂下?」

 そう声をかけてきた、オレより少し高めのそいつの顔を見ると山岸だ。

「よう。売れっ子」

「止せよ」

 そう言って笑いながら、グラスを口元に当てる左手に指輪が光っていた

「お前、結婚したの?」

「もう、四十だし。五年ほど前にな。坂下は?」

「一応、結婚した」

 一応って、と笑う顔はさすが、芸能人。華があるって言うのか。どこかオレたち一般人とは違うんだなって。

 そう思うと、コイツの嫁さんてどんな人なんだろ。

「嫁さんの、写メないの?」

「見せないよ」

「ケチ」

「うん。もったいないから」

 料理を口にしながらそんなことを言い合っていると、どこかに消えていた上野が戻ってきた。

「よー、山岸」

「上野か。お前変わらないな」

「山岸が変わりすぎ。なんだ、一時期のあの妖しいポスターは」

「商業戦略?」

 そう言って首をかしげる姿は、同じ四十男には見えない。五年くらい前までの山岸が写っているポスターは、化粧こそしてないものの髪が長くって妙な雰囲気のある代物だった。

「変わったと言えば、陸上部の田村っておまえら覚えてるか」

 そう言う上野の言葉にオレはドキッとした。

 田村 綾子。

 背がすらっと高くって、すごく成績優秀な女子。実は中学生のころほのかに憧れていた子だった。

「ああ、覚えている。ショートカットの子な」

 オレの返事に、上野がうなずく。

「あっちに陸上部のやつらと居たんだけど。なんていうかさ、女っぽくなってたぜ」

 上野の言葉に、好奇心が疼く。女らしくなった田村って。

「どこに居んの?」

「やっぱ、見てみたい?」

「そりゃな」

 そんなオレたちの会話を山岸は、空になった皿をテーブルに置いて黙って酒を口にしながら聞いていた。

 そういえば。山岸は確か、『男女(おとこおんな)』とか言って、田村のこと嫌っていたよな。


 中学生当時、チラチラと田村のことを眺めていたオレは、ある事に気づいた。

 田村が、本人には気づかれないように山岸のことを見つめている。二人が話をしている姿なんて見たことなかったから、田村の片思いだったのだろう。それに気づいたオレも立派に片思いだけど。

 田村を歯牙にもかけない山岸にちょっと腹が立って、話を振ってみたことがあった。

『田村って、お前のこと好きなんじゃねぇ?』って。

『あんな男女。うれしくもない』 

 そう答えたあと、こっちを見たやつの冷たい視線が怖くって、オレは心にもないことを言った。

『だよな。ありえねぇよな』 


 そんなやり取りをしたことを、山岸は覚えているだろうか?


「じゃ、ちょっとあっちに移動するか?」

 上野の声に、オレは我に返った。 

「そうだな。山岸は」

 来ないんだろ? そう続けるつもりだったオレの言葉にかぶせるように山岸がボソッとつぶやいた。

「そうか。思い出した。お前らだ」

 何が、オレたちだ?



 改めて料理を取ってから三人で移動した先のテーブルには、確かに女らしくなった田村が居た。

 相変わらずすらっとした姿勢に、黒いワンピースがすっごく似合っていて。うちの三つ年下の嫁さんが、最近白髪が……って騒いでいるのに、彼女は艶やかな黒髪をあごのラインで切りそろえていて。

「タムタム、子供は?」

「今日は、実家で見てもらってる」

 そんな会話が聞こえてくる。そうか。結婚して、子供も居るんだ。

「山岸を連れてきたぞー」

 そう、言いながら上野が会話に乱入した。ここでも、便利に使われる芸能人ってなんだろうな。

「きゃー、山岸君だー!」

 田村以外の女子が嬌声を上げる。田村だけはチラッとこちらを見たかと思うと、顔色も変えずに手に持っていたグラスを空けた。

「ね、山岸君。写真とっていい?」

「ツーショットじゃなかったらね」

 そんな会話を交わし、テーブルの面々と集合写真を撮る。何で、カメラ係を田村がしているのやら。

「タムタム、代わるからはいりなよ」

「いいよ。私は」

 強引にカメラを取り上げたのは、藤原か。

「タムタム、真ん中に入れちゃえ」

「だから、私はいいって」

 そんなやり取りをしながら、陸上部の面々は田村を山岸の隣に押し込む。嫌がってるのに、無理やりだなこいつら。

 そのまま、二枚ほどシャッターが切られて。人の塊が解けるときにチラッと、山岸の手が田村の腰を抱いているように見えた。


 気のせい、だよな。


 女子に囲まれた山岸を横目に、田村は水割りらしい色の新しいグラスと料理を手に、一人、テーブルに戻ってきた。

 彼女は頑なに、山岸に近づかないようにしているようにオレには見えた。

「田村って、いけるクチなんだ」

 お猪口をあおるジェスチャーをしながら話しかける。

「えーっと?」

「あ、わからないか」

「ごめんね? 剣道部だったかな、ってイメージはあるんだけど。名前が出てこなくって」

「坂下。山岸と三年のとき一緒のクラスだった」

「ああ。なんとなく思い出した」

 そう言って彼女はにっこり笑った。うわっ。コイツこんな顔で笑うんだ。

 『同窓会で、おかしな関係になる』って、うちの嫁さんが好きそうなドラマの世界じゃないか。

「私って、飲まないようにみえる? ダンナが飲むのにあわせて、結構普段から飲むんだけど」

「っていうか。田村ってストイックなイメージがあったから」

「うーん。ストイック、ではないわね」

「学年トップが何をおっしゃる」

「本当にストイックな人が、ダンナの仕事仲間に居るから。私なんてまだまだ」

 ふふふ、と笑いながら彼女はグラスに口をつける。

「ダンナ、何をしている人?」

 つい、オレは踏み込んだことを聞いてしまった。

「……自営業?」

 何で、そこで疑問形なんだろ。ストイックな仕事仲間の居る自営業って、職人とか?

 ダンナの話をしている彼女の顔には、『ダンナ大好き』と書いてある気がした。


「おーい、坂下」

 俺を呼ぶ声に、顔を上げるとオレたちから少し離れたところで、山岸にくっついて他の連中と話していた上野がこっちに寄ってきた。その後ろで、山岸が指でチョイチョイと合図をしている。

 誰を呼んでる? オレ?

 そう思う横で、田村が操られるように山岸のほうへ近寄っていった。

 そのまま山岸が彼女を誘導するように、こちらに背中を向けたと思うと、二人でなにやらヒソヒソやりだした。

「陸上の連中、このあと二次会するらしいけど。って聞いてる?」

「ちょっと、上野。あれ、やばくねぇか?」

 オレの視線の先で、山岸と田村が寄り添うように話している。そこまではさっき見た。ただ、山岸の手が、いつのまにか田村の腰に回っている。田村のほうも、そのまま奴の好きにさせているようで。

「あーあ。焼けぼっくいに火がついたか?」

「お前もそう思う?」

 上野の見立ても、オレと同じらしい。

「うーん。でも山岸が田村のこと好きだったのって、小学校だし」

 あれ? 逆?

「田村が山岸のこと好きだったんじゃなくて?」

「そうだったのか?」

「って、オレは思ってたけど?」 

 話が終わったらしく、山岸は彼女の手から飲みかけのグラスを取り上げた。

「ふじこ、ちょっと電話してくるね」

「ああ、二次会のこと?」

「うん。子供預かってもらっているから。時間延長できるか聞いてみる」

 田村は、藤原にそう声をかけると会場から出て行った。


 一人残った形になった山岸もこっちに来た。

「結局、二次会出るのか?」

 そう言って、手に持っているグラスに口をつける。グラスには酒が半分くらい残っていた。

「山岸、それ、田村の」

 飲みさし。

「あぁ。氷が解けたら薄くなるから」

 って、飲むか?普通?

「田村、怒るんじゃないか?」

「いや、大丈夫だろ」

 そうですか。芸能人だったら、何をしても嫌がる女はいないってか。

 なんだか、無性に腹が立ってきた。大体、二人とも結婚しているのだから、ダブル不倫になるだろうが。そうでなくっても、田村をスキャンダルに巻き込んでやるなよ。あんな顔でダンナの話をするような女を。

 ムカムカしながら、自分の分の酒を口にする。



「あや。どうなった?」 

 山岸の声に視線を向けると、いつの間にか田村が戻ってきていた。

 『あや』?

「うちのほうにかけたら、誰も出なくって。お母さんの携帯にかけたら、とおるの所で宴会になってるって。で、あの子は泊めたらいいから好きなだけどうぞ、だって。だから明日、迎えに来るわ」

「じゃぁ、時間は気にしなくっていいわけだ」

「うん。明日は日曜で、私休みだし」

 おーい。田村のお母さん。お嬢さん好きにさせたらダメだろう。孫が泣くぞ。

「タムタム、どうなった?」

 テーブルの向こうから、藤原が声をかけてきた。それを合図のように山岸がスーッと場を離れた。

「OKでーす。二人追加でよろしく」

 田村が、指を二本立てて答える。その『二人』って山岸と、田村? だよな?

 俺たちの見ている前で、何もなかったかのように田村は新しいグラスを、戻ってきた山岸から貰っている。あの色は、酒じゃなくって烏龍茶か? 

「なぁ、お前らって……」

 そう言いかける上野に

「上野たちは、来るのかー? 店、予約入れるぞー」

 と、陸上の飯田が邪魔する。上野と、アイコンタクトで参加決定。

「俺たちも数に入れといて」

 二人で返事を返して、振り向くとまた山岸が消えていた。

「あれ、山岸は?」

「今度はバレー部に顔出してくるって」

 忙しい奴。って、もしかして逃げたのか? 田村に下世話なことを聞けないし。

 田村は、新しく受け取った飲み物をおいしそうに飲んでいた。



 オレたちも陸上の連中から離れて、剣道部の集団に顔を出して。

 最後は生徒会の連中が正面に勢ぞろいをする中で、生徒会長の三本締めで同窓会は閉会した。



 二次会はホテルから少し離れた居酒屋の個室が取れたらしい。山岸はあっちこっちからかかる二次会のお誘いを愛想を振りまきながら、華麗にスルーして俺たちに合流してきた。ご苦労様なことだ。いっそどこか他のグループに取り込まれちまえ、って気持ちがなかったといえば嘘になるかな。

 総勢十人ちょっとで土曜の夜だというのに、よく予約が取れたと感心したというか、呆れたというか。

 オレたちはゾロゾロ歩いて移動した。芸能人さまも、だ。

「お前、徒歩移動なんてするの?」

 上野がたずねると、山岸は

「あたりまえ。電車だって乗るし」

 と、笑っている。田村はまた、陸上部の集団にまぎれている。こうして見ていても、姿勢がよくって、目を引くんだよなぁ。

「坂下。今日、田村のことずっと見てない?」

 そう声をかけて来た山岸の顔を見て、オレは凍りつくかと思った。こんなきつい顔のコイツを見たのは中学校のあの日。田村のことを『男女』って、こいつが呼んだあの日以来だ。   

「だったら、なんだよ」

 酒の力か、けんか腰に言ってしまった。

「坂下って、もしかして田村のこと?」

 上野までそんなことを言うし。

「だから、なんだって言うんだよ。山岸こそ、田村のこと嫌ってたくせに、今日はかまいすぎだろ?」

「誰のせいだと思ってるんだ」

 ボソッと山岸が吐き捨てた。

 だから。オレ、なんかしたのかって。


  

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