Tシャツとコガネムシ
取り敢えず私が住む予定の203号室へ向かった。
ところが、鍵がない。ポケットの中を探り、バッグの中を何度も覗き込んだ。
やっぱり無かった。私はがっくりと肩を落とした。
当然、鍵が無くてドアが開くわけが無い。
(私ってば、今日はとことんついてないよ)
仕方が無いので、その場に座り込みここの住民がくるのを待った。
でもこんなところに住民が本当に居るのかと思い少し不安になった。
─────……
もう2時間ぐらい経ったかもしれない。
眩しかった日も大分傾いてきた。
携帯を見て気を紛らわしていたが、ここは電波が悪い。
おまけに充電も切れた。
もう限界に達したそのとき
誰かが階段をのぼる音が聞こえてきた
(……誰かきた。あー、待った甲斐あったよ)
私はほっとした。でも、それはつかの間の幸せだった。
現れたのはボサボサ頭のTシャツ姿の田舎くさい私と同じ年くらいの青年。
いかにも頼り無さそうな人だ。私ははぁーっとため息をついた。
すると、行き成り彼が声を張り上げた。
「うわ、ちょ…お前不審者?悪いけど、うちに金なんかないんだからな!」
「はぁ? 違うんだけど。私を不審者と間違えるなんて最低ッ」
つい言葉遣いの悪さが出てしまった。
流石に行った後にマズイと思ったので私は苦し紛れにごまかした。
「あ……、ごめんなさい。ついクセで……あはは。
えと、私は203号室に越してきた白川柚木っていうんだけ……ですけど」
敬語はやっぱり難しい。
私は誰とでもタメ口で話してきたからこういうのは苦手だった。
すると、彼は突然笑い出した。
「おもしれえな、お前。そのコガネムシみたいな服装にその敬語の使い方は有り得ねぇ。
あ……、すまねぇ自己紹介遅れた。俺は佐伯尚だ。お前のお隣さんだな。じゃ」
そう言って彼は立ち去ろうとする。
「ま、待ってよ。聞きたいことがあるの……鍵ってどこで貰うの?」
私の声が響いた。言った後で大声を張り上げたことに気づき、恥ずかしくなった。
彼はクスクスと笑った。
「お前…普通に考えろよ!101号室の大家のとこ言って来い」
そう言って彼はそそくさと立ち去っていった
(何なのアイツー! ムカつく…コガネムシじゃないし
これ私のお気に入りのファッションなのに!馬鹿Tシャツ男)
確かに私の服装はこのへんの人からしたら派手な方だと思うけれど
コガネムシなんて言われたのは初めてだ。
考えすぎたのか、イラだった私は強い足取りで大家さんのいる部屋へと向かった。