第2話 桜花追想
そんなこんなで俺は公爵の元で保護されることになった。
そーいえば、気絶したと思ってた羽の男、いつの間にか綺麗さっぱり消え去っていたそうだ。……ちゃんとトドメを刺しておくべきだったか……まあこちらに干渉してこないのならどーでも良いが、もしちょっかいをかけてくるようなら次はちゃんとトドメを刺しておこう。
魔神教団のアジトからローゼンブルクの街までは二日ほどかかった。距離的には大したことは無かったが、山道なのと負傷兵の運搬のため、行軍に時間がかかったからだ。
その間、聞いたことによると魔神と言うのは要するに魔族の神のことで、魔王というのはその魔族の神に力を与えられ、魔族を統べる存在だそうだ。
前世での死の間際に聞こえてきた声を思い出す。
……あの声の主が魔神だったのかな……
あと特筆するようなことは俺は公爵の馬に相乗りさせてもらったんだが、下着をつけていないのが気になったのと、馬から降り屋敷まで向かう途中お姫様抱っこされたのが恥ずかしかったくらいか。
公爵の屋敷は、まあ公爵だけあって相当立派なものだった。石造りの堅固な造りは防衛力も高そうだ。
……なんだか息が詰まりそうだな……俺としては気楽にダラダラと過ごしたいのだが……
屋敷に入ると大勢の使用人に迎えられた。俺は客人として紹介されたのだが、使用人の何人かの俺を見る目が痛い。……多分この格好のせいであろう。
忘れていたが俺の格好は初めに着ていた薄汚れた貫頭衣のままだった。ところどころ赤黒いシミがついており、なんとなく嫌な感じだ。使用人達の俺を見る目も頷ける。
「……ところで、これ着替えたいんだが……着替えはないかな?」
俺は服の端を手で摘み、ヒラヒラとさせながらヴィルヘルムに聞いた。
「残念だが今この屋敷に君に合う服はないのだ……妻の服ならあるのだが……」
そう言って公爵は俺の体を見る。
ああ、そうですね、成人女性の服はこの体に合いませんよね……
そのやりとりに執事らしき爺さんが口を出す。長身痩躯、白い髪と髭を蓄えた穏やかそうな爺さんだ。
「恐れ入りますが、まずはお風呂に入っていただくのはどうでしょう? 着替えはその間に用意しましょう」
「……そうだな、そうしてもらうことにしよう」
こうして俺は風呂に入ることになった。
俺はメイドさんに連れられ風呂場へと向かった。
この世界の風呂はどんなだろう? なんにしても、早くさっぱりとしたかった。
浴室に入ると、そこはそこそこの広さがあり奥に金属製の楕円形の浴槽があった。浴室には大きな鏡があり、そこで自分の姿を確認する。
まず、目をひいたのは特徴的な髪の色だった。背中の中ほどまである薄く桃色がかった銀の髪は、元の世界の桜を思い出し懐かしさを感じた。顔立ちも整っていて黄金色の瞳も大きく愛らしい。
うん、TS転生物のセオリー通りの美少女だ。
身長は140台……半ばくらいだろうか。胸は全く無いわけではないが薄く、いかにも発展途上といった感じだ。
どうせ女性になるのならもう少し歳上が良かったな……子供の裸を見てもどうも面白みにかける……
湯船に浸かっているとメイドさんが俺の髪を櫛ったり、お湯を足してくれたりと世話をしてくれた。どうもこういうのは恥ずかしい。そのうち慣れるのだろうか?
風呂から上がりサッパリとすると、用意してあった服へと袖を通す。スカイブルーのエプロンドレス、どう見ても子供服だ。
……これ、ヴィルヘルムの趣味か?
メイドさんによって手際よく身を整えられるとヴィルヘルムの執務室らしき部屋へと案内される。
「おお、中々のべっぴんさんだな。よく似合ってるぞ」
そう言って、出迎えるヴィルヘルムは何だか嬉しそうだ。
「……もう少し動きやすい服がいいんだが」
「まあまあ。今から君の部屋へと案内しよう」
そう言って屋敷の中を部屋まで案内された。途中、廊下にかけられた一枚の肖像画が気にかかった。
「この部屋を使ってくれ」
通された部屋はかなり豪華な部屋だった。ドレッサー等が置いてあることから女性の部屋だということが分かる。
「この部屋は?」
「亡くなった妻の部屋だが、今は誰も使っていないのでな、君が自由に使って良い」
使っていないとは言ったがしっかりと掃除が行き届いており、ベッドやドレッサー等の家具も手入れが行き届いていた。
……多分、奥さんの事を想って大事に保存していた部屋なんだな……そんな部屋を俺にあてがってくれるなんて……
「本当に良いのか?この部屋……」
「……ああ、誰かに使って貰ったほうが喜ぶだろう」
「喜ぶ」それは、この部屋か、亡くなった奥さんか、判断がつかなかった。
俺は一つ気になっていたことを尋ねる。
「さっき、女の人が描かれた肖像画があったんだが……」
「……ああ、我が妻だ」
「そっか……」
その人は桜色の髪が特徴的な綺麗な女性だった。
もしかしたら俺に良くしてくれるのは亡くなった奥さんに似ているからだろうか……?
ヴィルヘルムは遠く懐かしむような目で部屋を見ていた。
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