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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第二章 知識編
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旧教と新教


 チベット仏教は古教派と新教派に大別される。古教派は世に赤帽派、新教派は黄帽派と言われる。

 古教派にはサッキャア、カルマーワ、ズクパ、ゾクチェンパなどに分かれるが、主義や成仏の方法は一致している。教えを開いた最初の人はロボン・ペッマ・チュンネというインド人で、僧侶でありながら肉食、妻帯、飲酒を奨励した。

 さらに仏教の教えに肉欲主義を結び付けて、成仏するには女を持ち、肉を喰い、酒を飲み、踊りかつ歌うということが最も必要だと説いた。

 肉欲がなぜ成仏につながるかというと、人間の一番大きな欲である肉欲の中にある時、人は無我の本体に到達し、大菩提性を得られるからだという。

 肉を食い、生き物の菩提を得るのは慈悲の道である。酒の快楽を受けて和合し、世界を安楽に暮らすことが、真実知恵の発現であり、これらによって即身成仏できると説く。

 日本でも立川流が興って、密教と陰陽道を合わせて似たような説を唱えたことがあったが、チベットほどではない。

 チベットにはサンスクリット経典や翻訳した書籍類もたくさん残っている。さらに後のラマが仏教の名でこれらの新説を生み出している。

 慧海が日本へ持ち帰った経典の中にも密教経典がいくつかあるが、ほとんど公に示すことができない内容だ。


 そこに新教派が起った。新教派はインドのパンデン・アチーシャに端を発し、その後チベット北部に生まれたジェ・ゾンカーワがチベット仏教の腐敗を一掃した。

 ゾンカーワは僧侶は戒律を重んじた。僧侶が女を持てば仏法を滅亡させる悪魔になるとし、自ら実行した。そこで信心の強い人が集まり、ガンデンという寺で新教派が立ち上がった。

 チベットで密教といえば、必ず男女が合体した姿の仏がある。新教派はこれを打ち破ることはしなかった。ジェ・ゾンカーワはこれを肉欲の表現ではなく、男は方便、女は智慧を意味しており、それが一致して仏ができるのだと説明した。

 肉は慈悲の象徴であり、肉を食えというのではなく、慈悲を行えということである。そして酒は性智を表わしたもので、智慧を使えと勧めているのだと説明した。


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