表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第一章 出国からラサまで
65/146

侍従医の推挙


 慧海(えかい)は前大蔵大臣の家に身を寄せるようになった。大臣から、以前の法王について聞いた。どうも法王の近臣には、奸智に富んだ大罪人がはびこっているようだ。

 彼らは表面上は忠義を尽すように見せかけているが、何かあれば「誰それが法王に不敬を犯した」などと言い立てて、忠臣を傷つける。この前大蔵大臣も、彼らに退けられた一人だという。


 法王は食事するにも毒が入っていないか常に注意が必要だ。実に気の毒である。

 ただ今の法王は決断力のある方なので、何度か毒殺に失敗して死刑になった者もいるので、佞臣たちも恐れて震えているそうだ。とはいえ法王が安全というわけではない。

 今の法王は若いのに民の情実をくみ取る。地方官吏には眼を光らせているので、官吏の中には法王を毛虫のように嫌う者もいる。一方、民たちは菩薩か仏のように信じている。


 慧海は大蔵大臣の家に住むようになってから、法王の離宮の内殿を拝観することが許された。建物はチベット、中国、インド風の3つが融合していて、庭は築山があって中国風、広い芝の庭の真ん中にちょいと花があるのはインド風だ。御殿の内装はチベット風で、屋根は中国風、インド風のところもある。

 庭にはいろんな石や樹木があり、花もたくさん軒先に鉢植えてある。内殿のたたき庭は宝石が花模様に敷かれ、その横の壁にはチベットの高名な絵師の絵があり、正面にはチベット風の法王の御座があって、その横に厚い敷物がある。そこには中国製の花模様のじゅうたんが敷かれ、美しい高机が置かれている。床の間はないが、茶箪笥が置かれ、ジェ・リンボチェの金泥の画像がかかっていた。


 慧海はその後もたびたび侍従医長に招かれ、医学の話をした。その頃には慧海も中国の医学書をだいぶ読み込んでいたので、どうにか話がかみ合った。

 侍従医長は慧海を気に入り、ぜひとも侍従医に推挙したいという。慧海は「私は仏教を修行しており、ラサ府には長くいられない。インドへサンスクリット語を学びに行きたいと考えている」と言うと、侍従医長は「あなたに外国へ行かれてしまっては、ラサ府によい医者がいなくなる」と言った。

 侍従医長が、「仏道修行の目的は衆生済度であろう。ここで医者として人の命を救い、仏道に導くのも一つの道ではないか」と言うので、慧海は「医者が人を救うのはこの世の苦しみだけで、衆生の業の苦しみを救うことはできない。僧侶としてこの無明の病を癒やすため修行をするためにインドへ行くのだ」と断った。

 すると侍従医長は「もし無理にでもインドへ出かけるというのなら、法王が命令を発して、あなたを国にとどめるようにするでしょう」と言った。

 そこでこの話は終わったが、慧海は気付いたのだった。これはラサから出るときに苦労するだろうということに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ