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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
一章 出国からラサまで
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修験者の罰法


 チベットには防霰税なる不思議な税がある。

 修験者(ンガクバ)に納める税だ。通常の租税も政府に納めなくてはならいので、農民にとって負担となる。

 また夏の収穫は修験者の力にかかっているので、地方の裁判の権力が彼らに集中する。修験者はラー・リンボチェ(ラマの宝)と呼ばれてあがめられ、執法官として大きな収入を得るのだ。

 が、悪銭は身につかぬのだろう、チベットの修験者は皆、貧乏である。あられが降るともっと大変で、麦がやられた度合いによって罰金を取られ、刑罰で尻を打たれることもある。チベットでは身分による容赦はない。


 さて、防霰堂からヤーセ村を経て、珍しい湖に着いた。ヤムド・ツォ湖といい、湖面の中央に、山脈が島のように浮かんでいる。このような地形は世界でもここだけだという。

 山脈は大きな龍がとぐろを巻くようで、実に素晴らしい。南側にはヒマラヤが高くそびえ、風が起これば湖面の荒波が音を響かせる。慧海(えかい)はこの豪壮な光景に尽きることない情緒を感じた。


 湖のとなりにパルテー駅があり、湖に臨む丘には城が建っていた。湖面に映り込んだ夕暮れの景色は、えも言われぬ風情があった。

 慧海は城の下の家に泊まり、翌3月16日、雪と氷を踏み分けながら湖沿いを進んだ。朝霧にけむる山の上から湖面を眺めると、月のかすかな光が映り、夜明けと共に明星が輝く。湖辺には水鳥が集い、湖上にはオシドリが浮かび、鶴の群れが美しく鳴く。こんな場所を未明に旅ができるのは、旅の最大の喜びである。

 満々とたたえられた湖の水だが実は毒水で、チベットではサラット居士が訪れた時に呪いをかけたとされている。そのとき水が血のように真っ赤になったが、あるラマが色だけを戻したそうな。その真偽はともかく、水の色が変わったのは事実であろう。水も、この辺りの鉱物が溶け込んで毒になったに違いない。

 湖周辺は昼食を取っている者も多い。慧海はここでひょうきんなネパールの兵隊に出会い、道連れになってラサを目指した。


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