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物凄き道


 これ以上疑われるのは危険と思い、慧海(えかい)は「あなた方は釈尊と旧教派のロボン・リンボチェ、どちらをありがたいと思っていますか」と話を変えた。これはチベットでは日頃議論があり、この質問が口火になって、大いに盛り上がった。


 モンゴル人はチベット人を評して「セムナク・ポェパ(心の黒い者はチベット人なり)」と言った。チベット人は人の内情に立ち入って探る癖があり、腹立たしいことがあったらその場で笑っていても、後でひどい仕返しをするような性質だ。

 ポェパ(チベット人)のポェとはチベットの国の名前で、「呼ぶ」という意味を持つ。チベット神話ではこの国を作った観音菩薩の化身テーウ・トンマルと、瑜珈女の化身であるタク・シンモは夫婦となって、6人の子を地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上の六道から一人ずつ呼んでこしらえたことから、「呼ぶ(ポェ)」を国名にしたのだ。

 インドではチベットをボーダという。道、覚という意味があり、ポェはボーダが詰まった音だという説もある。またインド人はチベットを「餓鬼の国」とも呼ぶ。


 翌11月6日、山脈を越えて雪山の麓に宿り、翌日は雪山の端を移動して鉄橋川(チャクサム・ツァンボ)に着いた。橋とは名ばかりで、鉄繩の橋がくくりつけてあるだけだ。

 一行は急流をラバに乗って渡り、草もまばらな平原を進み、サッカ・ゾンという沼の端に泊まった。山の上にはサッカという戦いに備えた城がある。遊牧民が襲撃するなどの有事には、そこに住む200人ほどが兵士となる。

 この夜も講義をして、翌日も進み、その翌日も枯れた山を進んで谷間に着いた。すると向こうにヤクのような大きな動物が見えた。通常のヤクの3倍ほどもあるドンヤクという獣で、1・5メートルほどの角がある。舌は小剣を並べたようになっていて、一度舐められればずたずたに切れてしまうそうだ。

 一行の男がとても怖がって、今夜無事に過ごせるか占ってほしいと言ってきた。聞けば昨年、この山の少し下で強盗に商人6人が殺されたという。慧海はそんな事は決して起こらないと慰めたが、嫌な場所であった。


 12日はクル・ラの急坂を越えてまた沼地に泊まった。あの疑い深い僧侶は、一行の中に慧海に帰依する人が増えてきたので、急に親しくしてくるようになった。慧海もこれで秘密が暴かれることもないと安心した。


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