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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第一章 出国からラサまで
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白巌窟の尊者


 灰色がかった窟の主もやはり僧侶で、座禅をして暮らしていた。慧海(えかい)はテントの老婆からもらったヤクの革を水に浸し、ここでしばらく逗留させてほしいと願った。主人と話す中で、カイラス山に行くルートも教わった。道なき道となるが、数日でたどり着けるという。

 その晩は窟の中で二人で座禅し、眠った。翌朝目を覚ますともう主は起きて茶を沸かしている。慧海も起きて経を読み始めた。本来なら口をゆすぎたいが、チベット人はそういう習慣がないので仕方がない。そうしていると主が例のバターと塩の入った茶をくれ、麦焦がしの団子を食べた。


 昼前くらいにちょうどゲロン・リンボチェ尊者に会える機会があり、参詣に来た20人くらいの人と一緒に白い岩窟へ向かった。尊者はこの辺りでは尊崇され、村人は毎晩、「ゲロン・ロブサン・ゴンボ・ラ・キャブス・チオー」と岩窟に向かって3回唱えて礼拝するそうだ。参詣に来る人は、数百キロと離れたところからわざわざ訪れ、前日から山のふもとに泊まり、昼の時間だけゲロン・リンボチェに会って説教を聞き、摩尼を授かる。

 まずは「唵摩尼吠噛吽(オンマニペツミホン)」の六字を唱え、三礼して、腰をかがめて舌を出すチベット式の挨拶をし、頭をたれる。すると、僧侶は手で頭に触れ、身分の高い人には額を頭につける。これをチベットでは「チャクワンを受ける」という。チャクワンにも四通りあり、器で頭をさする最上の方法は、法王やパンチェン・リンボチェが行う。


 さて、ゲロン・リンボチェは白髪の70歳くらいの老僧で、言語が鋭く、たくましい骨格は凄みがあった。けれども慈悲を施し、人を愛する強い観念には慧海も感服した。

 慧海も例の挨拶をすると、ゲロン・リンポチェは両手で頭に触れた。つまり同程度の人物としての礼を返してくれた。

 それから尊者は「あなたはここに来る必要がない人なのに何をしに来られた」と聞くので、慧海は「仏法修行のため各地の名跡を巡っている。あなたはどうやって衆生を救っているのか教えてもらいたくて参った」と答えた。

 すると尊者は「それはあなたも知っているでしょうから私に尋ねる必要はない」と返す。禅問答のようになったので、慧海は禅僧よろしく「私は53人に知識を聞いて回った善財童子にならっているのです」と言えば、「私の衆生済度は大解脱経に依拠している」と尊者。

 慧海がその経典をぜひ見せて欲しいと願うと、奥から経文を持ってきて「これは三乗は即ち一乗であるということを説明したものだ」と教えてくれた。

 慧海が経文を持ち帰って読んだところ、法華経に似たお経だった。

 それから靴を修理するのに2日岩窟に泊まり込み、その翌朝にまた尊者に会いに行き、大解脱経について問答した。中国・日本風の仏法とチベット風の仏法との喧嘩である。だがこれは慧海にとっても尊者にとっても大いに楽しいものだった。


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