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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第一章 出国からラサまで
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北方雪山二季の光景


 慧海(えかい)はツァーラン村に1年ほど住んだ。チベットらしくここも四季は夏と冬がはっきりしていて春秋はない。夏の景色は清く美しい。雪峰の間に麦畑が青々と光り、薄桃色の蕎麦の花が今を盛りと咲き競う。蝶がたわむれ、ひばりが謡い、ホトトギスが鳴く。

 雪を頂く雪山に夕日が入れば峰々はさんご色に光り、山際が黄金色から白銀になる。空には雲一つなく、弥勒菩薩(みろくぼさつ)がいらっしゃる兜卒天(そとつてん)の銀光殿のような峰の間から、真珠を集めたような月が姿を現してヒマラヤを照らす。冬の月夜の光景は、何物にもかえがたい。


 雪が激しく降ると村にも1メートルほど積もる。暴風が雪を巻き上げ、雪崩が平地を荒らす音は、大獅子の吠声のようだ。暴風雪の後は、田畑の一部は荒れ地と化し、別の場所には雪山ができる。雪が治まっても空には細かい雪が舞って煙っている。月影はうすねずみ色で、ヒマラヤの壮絶さはこれほどかと思わせる。

 空気は薄いが清浄である。食事は栄養価の高い麦焦し粉を食べる。動物性の食事にはバターがある。蕎麦の時期には新芽を発酵乳とあえて作る白あえのようなごちそうもあり健康的だ。陽暦8月は蕎麦の花盛りとなる。仏堂にこもって読経をしていると、蕎麦畑を通って山から吹き込む風が香ばしい。慧海は「あやしさに かほる風上眺むれば 花の波立つ雪の山里」と一首読んだ。


 ツァーラン村の人口は250人ほど。そのうち僧侶が114人(尼僧50人)で、いずれも肉食妻帯をする旧教派だ。男女が僧侶同士、僧侶と在家で暮らす家もあるが、子ができれば戒律に背いたということになり、その場合は懺悔(シャクパ)をする。

 懺悔になると、まずどっさりと酒を買って僧侶を招き、どんどんついでまわる。初めは殊勝に読経をするが、酔いが回るとくだを巻く。

 戒律に背いた者は寺に5円ずつ罰金を納める。男僧なら額は倍の10円になる。酒と肉とバター茶と供養費に少なくとも15円はかかる。派手にするほど懺悔が届いたといって褒められる。

 これが仏教の集まりだとは到底思えない。だが慧海は思う。日本の僧侶はこのツァーラン村の僧侶とどれほど違いがあるだろうか、と。


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