雨の降る街
ここは雨の降る街 本山町
初夏 セミがすでに鳴いている。
梅雨に入る前のじめじめとしたあの空気が校内を包んでいる。
「おはようー」
「おはよう」
教室に入ってくるクラスメイトが挨拶を交わす。
俺は挨拶をしない。
なぜなら、おれはこのクラスに友達がいないからだ。
しかしながら面白くないものだ、いくら友達がいない俺とは言えど、青春はしたいものである。
まだ一年生だからと調子に乗っていればあっという間に、時は過ぎて卒業式を迎えるものだ。
漫画では、ここから女の子が近寄ってきて会話が発展して、文化祭や体育祭を通して恋に発展したりしなかったり、、、
そんな甘い恋が定番なんだけどなぁ。
俺には縁もゆかりもない話だ。
にしても青春はしときたいもんだ。
高校を卒業すれば、大学生になり社会人になり、そうして時を過ごしていく。
この三年間が人生において、一番楽しめる時間なのだ。
無駄にはしたくない。
けど、男友達すらいないしな、、、
青春は程遠いな、、、
今日も屋上で飯を一人で食べる。
この学校は田舎にある学校だからか珍しく屋上に登れるのだ。
屋上でごはんを食べると少し青春感が出てエモいのだ。
至福ではある。
屋上に上がれるというのに、なぜかみんな上には来ない。
入学して2ヵ月目の昼のことだ。
友達が出来ず、昼飯をどこで食べようかと模索していた頃。
最初は教室でも食べようとは思ったのだが、周りからの視線に弱い俺は教室は諦めることにした。
さすがにトイレで食べるというのは負けた気がするので、どこかいいところはないかと考えていた。
そのとき屋上に上がれることを思い出し、少しでも青春気分を味わいたかったこともあり、
屋上で昼飯を食べるという至福にありつけたわけだ。
そうして今この特等席で、校庭を眺めながら昼飯を頬張っている。
今日で三日目だというのに、この屋上に昔から居座っているような気がする。
ここから見る校庭はとてもいい光景だ。
カップルが二人でベンチに腰掛けて、弁当を分け合っている。
なんて微笑ましい光景なんだ。
早弁を下であろうものたちがパンを買う姿。
はあ~それにしても、俺にも青春したい気分だ。
こんな俺でも友達の一人くらいほしいのだ。
何とも言えない感情、悲しいものだ。
高校生になっても友達一人できないというのは、、、
「あれ、水卜じゃん。」
ん?俺の名前を知っている?しかも屋上に誰がこんなところに、
この子は、、、!
簑浦 楓。
いつも教室の窓際で空を見つめている人だ。
髪は長く黒い
顔立ちはきりっとしている。
独特な雰囲気を纏っている彼女だが、俺の名前を知っているとはな、、、
なにせ彼女は入学以来誰とも関わりを持ちたがっていなかったからだ。
俺とは違い、彼女は美しく少なくとも話しかけられなかったわけでもない。
彼女は話しかけられていたのに、会話を極力避けて関わりを持とうとしなかった。
「簑浦さん、、、?なんでここに?」
「なんでって、来たらダメなわけ?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、ここには人が来ないと思ってたから、、、しかも君みたいに誰からも好かれそうな人が。」
「いつからここで食べてるの?」
「つい三日前に見つけたところだよ、、、?」
「あらそう、それなら私のほうが常連ね。」
「簑浦さんはいつからここを使ってるの?」
「私は入学してからずっとよ。それと、”簑浦さん”ってやめて、楓でいいわ。」
「それにしても君みたいな人がなんで僕なんかに会話してくれるんだ?」
「どういうことよ、、?私は誰だからって態度は変えない人間よ。」
「それならなんで入学してからずっとクラスの子たちと関わりを持ちたがらないんだ?」
「ああ、それは、、、色々あったのよ。」
「そうなんだ、、、」
彼女は理由は話さなかったが一つ一つの仕草に”なにか”あったことを僕に悟らせた。
理由を聴きたかったけど、僕にはできない。
そこまでの勇気はないし、そこまで深入りしてしまったらなにかよくない気がした。
でも、屋上仲間ができたことはうれしかった。
今日は友達?ができたことを噛みしめて、目をつぶった。