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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
おまけ

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3.嘘と思惑

「それで? どうしてソフィアにそんな噓をついたんだ」


 応接間にて、当然のようにソフィアと並んで座るフェルナンは、厳しい表情をユゲットへと向けていた。けれど冷たいアメシストの瞳には慣れているのか、意に介した様子もなくあっけらかんとして彼女は言葉を返す。


「人聞きが悪いねぇ。老婆心(ろうばしん)だよ、老婆心。アタシは少しでも早くアンタの恋を叶えてあげたくて、あえて刺激を与えてみたのさ」


 ソフィアがアマドゥール公爵邸へと戻ってくるより前、フェルナンはブランシェ伯爵領から屋敷へと戻ってきてすぐ、嘘の情報をあたかも本当のことのように語った件について直接話が聞きたいとユゲットに対して手紙を出していた。だが彼女から返ってきた手紙には、どうせならソフィアが戻ってきてから一緒に説明したいと書かれていたのだ。二度説明するのは手間だから、と。


「私はソフィアに対して嘘だけは決して口にしてこなかったのに、ユゲットがそんな嘘をついたせいで色々とややこしくなるところだったのだが?」


 額に青筋を立てそうになりながら、それでもギリギリで冷静さを保っているフェルナンの態度にすら、ユゲットはどこ吹く風。


「おやまぁ。じゃあ、いい恋のスパイスじゃないか」

「前向きな解釈をしすぎだろう! 実際にはそのせいで婚約を受け入れてもらえなくなるところだったというのに……!」


 だが思わず大きな声で反論してしまったフェルナンの言葉は、彼女にとって想定外だったらしい。


「なんだって!?」


 ここでようやく驚きに目を見開いたユゲットは、どういうことだと言わんばかりにソフィアを赤い瞳で凝視するのだが、そんな視線を向けられた張本人は先ほどからの二人のやり取りに苦笑を浮かべていた表情のまま、サラリと答えてしまう。


「魔法の効力を向ける相手が私でなくてもよいのであれば、正式な婚約者候補の方に愛の言葉を向けていただくことこそが正しいあり方なのだと考えていたのです。なによりフェルナン様が私に向けてくださっているのは偽物の愛であって、本心からのものではないとずっと思っておりましたから」


 特にユゲットから前任者がいたのだと話を聞いてからは、同じようになってしまってはいけないと自分を強く律していたのだという事実まで語るソフィアに、横に座っていたフェルナンは告白の際に彼女から向けられた言葉を思い出したのか軽く頭を抱え、その言葉を真正面から受けたユゲットは開いた口が塞がらなくなってしまっていた。つまりソフィアがなにをどう考えているのかという部分は、二人にとって予想外な展開を生んでいたのだ。

 フェルナンからすれば己のあずかり知らぬところで、ありもしない話をでっち上げられていたせいで一世一代の告白が不発に終わる可能性もあったというのだから、今思い出しても心臓に悪い内容だろうし。ユゲットに至っては彼らが結ばれる手伝いをしていたはずの、よかれと思ってしていた行為自体が反対に妨害するかのように距離を作る結果となってしまっており、最悪の場合フェルナンの長年の片思いが成就しない未来を生み出していたのかもしれないのだから。これを予想外と言わず、いったいなんと言うのだろうか。


「なんてことだい……」


 思わずといったふうに呟いたユゲットの言葉が、それを表している。まさか自分の嘘と思惑がそんな状況を生み出していたなどとは、想像もしていなかったのだろう。

 彼女の様子からその事実を悟ったのかフェルナンが落ち着いた、けれどやや冷ややかな声でユゲットへと言葉を向ける。


「分かっただろう? ソフィアに無意味な嘘は必要ない。ユゲットがやっていたことは、ただ場をかき乱し状況を悪化させるような行為だったんだよ」


 それは暗に、余計なことは今後もするなという意味合いも含んでいた。実際彼がユゲットへと向けていた視線は、真剣にこの年上の魔女を(いさ)めている雰囲気がハッキリと感じ取れるものだったのだから。

 これでは老婆心などではなく、ただのいらぬお節介だったとようやく気付いたのだろう。ユゲットは珍しく額に手を当てて、天を仰ぐような仕草を見せたのだった。


「あー……、そうだね。それはアタシが悪い、うん」


 けれど長い時を生きてきた魔女は、こういった場合にどう対応すべきなのかをしっかりと心得ていた。すぐに気持ちを切り替えられるのも、経験を積んできた証なのだろう。


「……悪かったよ、フェルナン。それにソフィアも。アタシの作り話で混乱させて悪かったね。この通りだ、許しておくれ」


 潔く頭を下げるユゲットに、フェルナンはようやく理解してくれたとホッと胸をなでおろしていたのだが、反対にソフィアは彼女に対して怒りを抱いていたわけでもなかったので、大いに焦る結果となってしまったのだった。

 この後は結局、一番被害を受けていたであろうソフィアが許してくれるのならば今後一切こんなことはしないと約束したうえで自分も許すと言い出したフェルナンに対して、当然とばかりに何度も大きく頷くユゲットの姿があったのだが。そんな魔女の姿を知っているのは、この日この場にいた者たちだけだった。


 なおこの直後、謝罪ついでにもう一つ真実を話しておきたいと口にしたユゲットから、実は成人祝いとしてオーギュスタンも含めた三人で飲んでいたあの日のワインには、こういう機会もそうそうないだろうからと本心を素直に口に出す程度の軽い魔法をかけていたのだと暴露されることとなるのだが。今の今まで全くその事実を知らなかったフェルナンが衝撃を受けると同時に大問題だと判断したことにより、後日、成人祝いをした場所と同じ部屋にあの日と同様の三人のみで集まり、ワインにかけられていた魔法の詳細をフェルナンとオーギュスタンがユゲットから聞き出すことになるのは、また別の話だ。



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