26.恐怖を覚えた
結果だけを言ってしまえば、私も父上も精神干渉は受けていなかった。
オーギュスタン殿下との接触は特に禁止されていなかったので翌日雑談ついでに事情を話したところ、なんと現状を重く見た王家から信頼できる鑑定士が派遣されてきたため、そのおかげか提示された結果については父上も一切の否を唱えることはなかった。だが、それでもどうしても納得がいかないらしい父上は、私にかけた魔法に関する詳細をユゲット本人から直接聞きたいと言い出したのだ。
「それで、いつになったらアタシはアンタの父親に会えるのかねぇ?」
若干呆れた顔をしつつ、ため息までつきながらそう問いかけてくるユゲットがいるのは、アマドゥール公爵邸の応接間。以前ソフィアとも話したこの場所に彼女が直接尋ねてきてくれたのは、実はこれが初めてではない。
「どうやら父上にすぐ情報がいっているようで、ユゲットがいる間は決して帰ってこないと決めているみたいなんだ」
「直接会って詳細が聞きたいって言ったのは向こうだってのに、それはまたずいぶんと勝手だねぇ」
「本当にね。申し訳ないよ」
真実を知りたくないのか、それとも己の非を認めたくないのか。理由は定かではないが、忙しい時期ではないはずの父上はユゲットが屋敷を訪ねてきてくれた日に限って帰りが遅かったので、思い切って家令にそれとなく理由を尋ねてみたところ、ユゲットの訪問について父上と侍従が話し合っている姿を偶然目撃した使用人がいるという情報を得ることができたのだ。とはいえ最初はもしもの場合に備えて急いで屋敷に戻ってくるための指示だと判断していたため、その使用人は疑問に思うこともなく報告もしていなかったそうなのだが。
「自分で口にしたってのに、その本人が自分の意思でアタシから逃げ回ってるってことか」
「ユゲットからというよりも、真実からといったほうが正しいかもしれないけれどね」
二回目にユゲットが訪れた際にも帰りが遅かった父上を怪しんだ使用人がそのことを報告したため、おそらくはそういった理由なのではないかと家令も推測していたようだが、同時に彼には父上から直接それについて聞き出せていないため残念ながら確信は持てない内容だとも言われている。とはいえ、ほぼほぼ間違っていないだろうというのが私たちの見解だった。
そういった経緯があったので、それらも包み隠さずユゲットに伝えたところ――。
「へぇ? アタシの半分も生きてない若造が、ずいぶんと偉そうじゃないか」
「ユ、ユゲット……?」
珍しくその赤い目が据わっており、さらには風もないはずなのに癖のあるオレンジブラウンの髪が、若干ゆらゆらと揺れているようにも見えた。それはまるで、おとぎ話に出てくる悪い魔女の挿絵にも似ていて。
「そんな風になめた態度で魔女をこんなにも待たせるなんて、悪ガキか世間を知らない小僧くらいなもんだよ。これは大人として、しっかりとしつけてやらないとだねぇ」
「いや、あの……一応父上も、一国の大臣を担っている人物なのだが……」
「知ってるよ。だが物事を正しく理解してない坊やには、ちゃんとした教育が必要だろう?」
「っ……!」
目が笑っていない彼女が口の端だけを持ち上げた瞬間、私はユゲットと出会ってから初めて、魔女という存在に恐怖を覚えたのだった。人間と魔女は、そもそも存在からして別の生き物なのだということを強制的に本能で理解させられているような、そんな感覚で。もしかしたらユゲットのオレンジブラウンの髪が揺れているのは、怒りによって彼女の身の内にある魔力が漏れ出している結果なのかもしれないと、変に冷静な部分でそんなことを考える。
私が恐怖心を抱いたことに気が付いたのか、こちらの表情を見てその赤い瞳がふっと細められると同時に今の今まで感じていた謎の圧のようなものは収まり、見た目は普段のユゲットに戻りはしたのだが。それでも私の本能は、まだ警戒を解こうとはしていなかった。
「安心していいよ。さすがのアタシも、別に痛めつけようって考えてるわけじゃないからね」
言い方や雰囲気からそれが本心であることは理解できるのだが、先ほど感じた言葉では表しきれないような感覚のせいでそれを本当に信じていいのかどうか不安になってしまい、疑いの心を払拭できずにいると。
「ま、正直ちょっと怪しい部分もあるからね。魔女にこんな対応を取り続けるなんて、どう考えても普通じゃないのはアタシでも理解できるし。鑑定士だけじゃ判断できない部分も、ちょっと調べてみるつもりだよ」
「……え?」
今度は違う方向から引っかかる言葉を向けられた私は、そのままユゲットが現段階で考えている内容の詳細を聞くことになったのだが。それはある意味で予想もしていなかった、魔女だからこそ見抜くことができたのであろう抜け穴のような真実の可能性を示唆され、私は別の意味で恐ろしさを感じてしまったのだった。




