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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
月の侯爵様の想い人 ー フェルナン視点 ー

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22.着実に

 そうしてソフィアと共に王立図書館をあとにして、まだ時間があるからとカフェへと誘い出し。さらには、すでにささやきという声量ではなくなった言葉たちをこれでもかと彼女へと向ければ、可愛らしく顔を赤くして俯くその姿に私は大満足のまま屋敷への帰路についたのだった。


 そしてこの翌日からソフィアへとこの胸の中にある想いを伝えるべく、私はまた一段と彼女に対して積極的に接することになる。それは日に日に勢いと熱量が増していき、私の言動が積極性を増せば増すほどソフィアが受け入れてくれているのだという事実にまた嬉しくなり、さらに勢いが増すという好循環ができはじめていた。

 とはいえ、さすがにピンクの花束を贈りたいと口にした際には止められてしまったので、そこは素直にまだそういった関係になれる時期ではないのだと納得して引き下がることにしたのだが――。


「まさかソフィアのほうからユゲットに会いたいと言われるとは、思ってもみなかったな」


 彼女からすれば領地を離れなければならなくなってしまうような原因を作った張本人だというのに、そんな人物に会えないかと聞かれることになるなど、全く想像していなかった。


 ちなみにユゲットとは時折手紙を出して近況報告をしているくらいで、忙しくて会えない時は特別連絡を取り合ったりはしていない。そういう間柄なので、こうして改めて日程調整のための手紙を書くなど逆に新鮮すぎて、不思議な気分になってしまう。

 とはいえ最近は全く会えていないことを考えると忙しいのか、あるいは時間がかみ合わなくなってしまっているのか。相手は魔女なので比較的自由にしていることが多いのだが、意外とユゲットにも真面目な部分があるのか仕事となると完全にそちらに集中してしまう性格なので、そういった場合には手紙の返信すら遅れることが今まで数多くあった。なので、もしかしたら今回もすぐには返事の手紙が返ってこないかもしれないと考えつつも、とりあえず私にできることはこれだけなので手紙に封蝋を施し、控えていた使用人へとそれを託したのだった。


 だがそれからすぐ、オーギュスタン殿下と共に新しい外交先とのやり取りを始めてしまったため、今度はこちらが忙しくなってしまい。ユゲットからの返事が届く頃には私のほうが時間の余裕がなくなってしまっているという状況に、どうにも申し訳ない気持ちになってしまった私はソフィアに直接謝罪したのだが、その際にも彼女は一切怒りや苛立ちを見せることなく、むしろ「仕方のないことですから」と言って私に頭を上げるようにと懇願してきたのだ。


 そんな優しいソフィアの願いを叶えてあげたくて今までにないほどユゲットと手紙のやり取りをして、ようやく折衷案(せっちゅうあん)のようなものが出てきた次の日、まさか夕食の席で彼女の優秀さをさらに強く認識することになるとは思ってもみなかった。だが逆に本人の口からなんでもないことのように出てきたからこそ信憑性は高く、これならば父上がお戻りになった際にもアマドゥール公爵家に迎え入れるのに相応しい女性だと認識してもらえるだろうと、私は改めて未来の可能性に思いを馳せていたのだった。


 ちなみにこの時、私も学園在籍中に図書室を利用していたことを告白したのだが、ソフィアは私と会話したことなど全く覚えていないのだという事実を改めて思い知らされることとなった。

 とはいえ初日の反応からしてそうなのではないかと予想していたこともあり、おかげで想像していたよりは大きな衝撃もなく、むしろやはりそうなのかという感想しか抱かなかったのだが。逆に彼女のほうが申し訳なさそうな表情になってしまったため、余計な情報を与えてしまったのではないかと若干後悔の念を抱いてしまう。

 もちろんすぐにソフィアの素晴らしい部分と、私が図書室に通っていた理由の一つを伝えることで、彼女の顔を上げさせることには成功したのだが。しかしこの時、私はもう一つの大きな理由は口にしなかった。まさかソフィア目当てで定期的に図書室に足を運んでいたなどと、今はまだ本人に直接伝えるべき時ではないと判断したからだ。

 結局この話はそこまでとなり、その後はまた私の言葉で顔を赤くする可愛らしいソフィアを堪能できる時間だったのだが。残念ながらもう少しでしばらくの間彼女とこうして会話を交わすことすらできなくなるのだと思うと、どうにも落ち着かなくなってしまう。


「ようやくここまでたどり着いたところだというのに」


 ソフィアを部屋へと送り届け、私自身も眠る準備を整えベッドに入ったところで今日までのことを色々と思い出しながら、ふとそう呟いた。

 実際彼女が初めてこの屋敷に足を踏み入れたあの日から比べると、かなり距離感も近くなっているし言動も積極性を増している。なにより最近では、時折私の言葉に顔を赤くして恥ずかしそうにしているソフィアの姿まで見ることができるようになってきているのだから、着実に望む未来へと進んでいるはずなのだ。彼女に私のことを男として意識してもらうという当初の狙いの、さらにその先にある最終的な目標へと。


 だからまさか、ここから様々な人々の思惑と勘違いと思い込みが入り乱れた結果、予想もしていなかった状況ができあがってしまうことになるなど、この時の私は想像すらしていなかったのだった。



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