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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
月の侯爵様の想い人 ー フェルナン視点 ー

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10.ユゲットの魔法

 そもそもの大前提として、白状させるという言葉選びからしておかしい。罪を犯したわけでもないというのに、まるで私が悪いかのような言い回しではないか。

 頭の中ではそんなようなことを考えているというのに、実際にはひと言も声を発することができないままの私を置き去りにして、殿下とユゲットは二人だけで楽しそうに会話を続けていた。


「さすがユゲット、妙案だね!」

「だろう? 素直に教えない悪い子には、これが一番手っ取り早いんだよ」


 一切悪気のなさそうなその様子が、逆に恐ろしすぎる。

 このまま本当にブランシェ伯爵令嬢に迷惑がかかってしまってはいけないと危惧(きぐ)した私は、開いたままだった口をようやく閉じてから思い切り空気を吸い込み、暴走を始めている二人を止めるべく口を開いたのだが――。


「そこまでに――!」

「さぁフェルナン、答えるんだ。アンタが愛したのは、どこの誰なんだい?」

「っ!!」


 どうやら少し遅かったらしい。私の言葉を遮るように言葉を紡いだユゲットの手には、いつの間にか木を削り出して作られたのであろう細い杖が握られていて。その先端から三色の光が飛び出してきたかと思えば、まるで私の全身を包み込むかのようにその光の粒たちが取り囲み、そして最後には土が水を吸収するかのようにこの体の中へと光は消えていった。


「……ユゲット? 今、なにを……」

「アタシの魔法は害がないものだからね、そこは安心していいよ」

「いや、そうではなくて……」


 ユゲットの魔法を見たのは、これが初めてではない。そのためそれ自体に驚きはなかったのだが、気になるのは光が三色だったという点だろう。今までこんなにも様々な色の光が同時に放たれたところなど見た覚えがないことを考えれば、これがただの自白のための魔法のみだとは考えにくいのではないかとこれまでの経験や彼女との付き合いの長さから推測すると同時に、どこか嫌な予感もしていた。


「まぁ、まずは質問に答えてもらわないとねぇ」

「っ!」


 だがその詳細を聞き出すよりも先に、それはそれは楽しそうな表情で笑いながらユゲットがそう告げた瞬間、私の体に唐突に変化が起こる。なぜかは分からないが、まるで焦燥(しょうそう)に駆られているかのように胸の奥がざわめき、なにかを吐き出さなければという強迫観念(きょうはくかんねん)にとらわれてしまったのだ。


(まずいっ……、これはっ……!)


 明らかに普通ではない己の在り方に、完全にユゲットの魔法に支配されてしまっているのだと頭では理解できていたのだが。


「アンタほどの男が今でも忘れられない女っていうのは、いったいどこの誰なのか。さぁ、教えておくれ」

「っ……」


 魔法の対処法を知らない私が、それに抗えるはずもなく。


「ブ……ブランシェ伯爵家の、ソフィア嬢……」


 己の意思とは関係なく口が動き、あっさりと真実を告げることになってしまった私は、ただ頭を抱えてうなだれることしかできなかった。

 そんな私とは正反対に、殿下とユゲットは知りたかった名前を聞き出せたと大変満足そうな会話を交わしている。


「ブランシェ伯爵家!? それは予想外だね!」

「そうなのかい?」

「フェルナンの婚約者候補の中にあの家の名前はないし、なにより接点が一切なかったはずだからね。それなら確かに、一度しか会話をしたことがないというのも納得だよ」

「ということは、その一度の機会に何かがあったということかねぇ」

「そうかもしれないね」


 人の気も知らず勝手な妄想を繰り広げて楽しんでいる二人に対して、若干の苛立ちを覚えもするが。それ以上に、今の私は焦っていた。

 ブランシェ伯爵令嬢には一切の迷惑をかけないようにと四年もの間ひた隠しにし、学園在学中は誰にも悟られないよう努力してきたというのに、まさか学園も卒業し成人を迎えてから真実を暴かれることになるなど考えてもいなかった。これで万が一彼女に迷惑がかかってしまうようなことになれば、私のあの時の苦労は本当に水の泡になってしまう。

 このまま誰に知られることも悟られることもなく、ただ己の心の中だけに留めて墓場まで持っていくつもりだったというのに、こんな悪ふざけのような形で明らかにされてしまうなどと誰が予想できるというのか。これは完全な事故だ。むしろそうでも思っておかなければ、やりきれない。


「それで、どんな人物なんだい?」

「う~ん……。私も直接会話を交わしたことはないから、あまり詳しくは知らないけれど……。ただブランシェ伯爵領といえば、最近『雪野菜』で有名かもしれないね」

「ほ~ぅ?」


 私は一人深くため息をつきながらも、ただ二人の会話を聞いていることしかできなかったのだが。まさかここから、さらに大きく別の展開を迎えることになるなどとは、この時は想像すらしていなかった。



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