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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
月の侯爵様の想い人 ー フェルナン視点 ー

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9.問題になる

「さぁ、どこの令嬢なのか教えてくれるよね?」


 ロイヤルブルーの瞳を輝かせながら、どこかワクワクとした表情でこちらを見つめてくる殿下のその姿に、私は軽く後悔した。もっと早くワインボトルを下げておくべきだった、と。


(これは確実に、すでに普段以上に酔っていらっしゃる……!)


 平時の殿下であれば、こんな風に問題になりそうなことをわざわざ尋ねるようなことをする方ではない。それが今は好奇心が勝ってしまっているのか、明らかに悪びれる様子もなくそう言葉を紡ぎ出しているのだから、本来の理性をどこかに置いてきてしまっていることはまず間違いないと思っていいだろう。


「ほらほら、オーギュスタンもこう言ってるんだ。素直に名前を告げて、楽になってしまえ」

「ユゲット……!」


 さらには興味本位だけで聞いているのであろう人物まで会話に加わってしまえば、面倒なことこの上ない。思わず恨めし気に彼女を睨んでしまったが、こればかりは致し方がないことだったといっても過言ではないだろう。

 しかし、なぜ殿下に加勢しているはずのユゲットは、まるで悪人のような言い回しをしているのか。あまりにも謎すぎる。


「もちろん、誰にも口外しないと約束するさ。心配なら、そういう魔法を今かけてあげようか」

「ユゲット、君という人は……! そんなことのために気軽に殿下にまで魔法を使われては困る!」

「えー? いいじゃないかー」

「いいわけがないだろう!」


 しかもこの調子なのだから、必死に止める私の身にもなってほしい。これで本当に殿下にいらぬ魔法がかけられたとなれば、きっと明日の私の一日は詳細説明のため完全に潰れてしまうことだろう。それだけは、なんとしても阻止しなければならないのだ。


「そもそも婚約者候補の中にいないことを明らかにしている時点で、もうほとんど口にしているようなものじゃないか。ならあとひと息ぐらい、別にいいだろうに」

「むしろここまで答えたのだから、それで満足してくれないかな」


 外部に漏れてしまえば問題になる可能性もある、そのギリギリの情報なのだから、もうこれ以上は許してほしい。

 片手で頭を抱えつつそんな思いを込めて問いかけるが、今度は別の方向からやや不機嫌そうな声が飛んでくる。


「いいよ、ユゲット。フェルナンに答えるつもりがないのであれば、私にも考えがあるからね」


 ある意味で最も恐ろしい人物に、酔った状態でそう告げられてしまったこの瞬間の私の心情を、どう表現すればいいのか。焦りや不安から冷や汗が出てきそうになりながらも、私はなんとか冷静を装って今度は殿下へと問いかけた。


「考え、とは? どうなさるおつもりですか?」

「なに、簡単なことだよ。アマドゥール公爵に掛け合って、フェルナンが本当に愛する女性を(めかけ)として迎え入れることができないかと交渉するのさ」

「おやめください……! いくら殿下といえども、それは横暴すぎます……!」


 殿下からの返答に焦った私はそう制止の言葉をかけるが、酔いの回っている状態の殿下はその言葉を素直に聞き入れてはくださらずに、さらにこう続けたのだ。


「なぜ? まさか相手の令嬢は、すでにいずこかへと嫁いでいるのかい?」

「そうではありませんが……! そもそも妾になど彼女に失礼ですし、私に嫁いでくれる予定の婚約者にも失礼です!」

「まだ嫁いでいないのであれば、たとえ婚約者がいたとしても白紙に戻すことはできる。候補に入っていない以上、君がその令嬢を手に入れる方法はそれしかないはずだよ?」

「ですから! そのつもりなど初めからないので、言葉を交わしたことも一度だけなのではありませんか!」


 必死に否定し続けるのだが、それでも首をかしげ続ける殿下に、私は思わず両手で頭を抱えてしまう。それは先ほどのユゲットなど比にならないほど、もはや本格的に頭の痛みを覚えるほどで。

 そもそも殿下にそういった決定権があるのかというと、本来ならばそこまで強制力のある発言ではないはずなのだが、これが父上との交渉となると話は別だ。困ったことに、今後殿下の治世となった際にアマドゥール公爵家にとって有利になる可能性が高いと父上が判断してしまえば、この提案が現実のものとなってしまう。つまり今のこのやり取りも含めて、酔った殿下の戯言(たわごと)ではなくなってしまうのだ。

 ご自身が帝国の姫との仲が順調で政略的な婚約以上の関係を築けているからなのか、殿下は時折こういった色恋事に関して大変積極的な部分があるのだが、私のこの件についてだけはその積極性を発揮していただきたくなかったと心の底から思う。


「そうはいっても、結局忘れることなどできなかったのだろう?」

「そっ……! それは、そう、ですが……」


 このままでは本当にブランシェ伯爵令嬢に迷惑がかかってしまうというのに、ふいに問いかけられた殿下からの言葉につい私は反応してしまい、その影響で今までの勢いを削がれてしまった。

 それがきっと、よくなかったのだ。


「よし! じゃあこうしようじゃないか!」


 突然元気よく言葉を発したユゲットが、まるで名案を思いついたとでもいうような口調でこう告げる。


「素直に答えるつもりがないのなら、フェルナンに魔法をかけて白状させる! オーギュスタンは魔法と一切関係ないから、これならいいだろう!」


 どうだと言わんばかりに胸を張っているユゲットに、殿下はこれでもかと顔を輝かせていたが。どう考えても非合法的に自白させる方法にしか聞こえなかった私が、衝撃のあまり言葉を発することさえできないまま開いた口が塞がらない状態だったのは、もはや致し方のないことだったと言わざるを得ないだろう。



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