1.成人祝い
ここからはフェルナン視点となります。
本編のネタバレを多大に含んでおりますので、まだの方は先に本編をお読みになることをオススメいたします…!(>ω<;)
「いや~、フェルナンとオーギュスタンがついに成人だなんて、時が経つのは早いねぇ!」
女性らしい曲線美が妙に目立つ黒い服を着て、褐色の肌とウェーブがかった癖のあるオレンジブラウンの髪を持つ魔女ユゲットは、懐かしそうに赤い瞳を細めながらグラスの中に残っていたワインを一気に喉の奥へと流し込んだ。さすがに飲みすぎだと思うのだが、先ほどから「アタシはこの程度で酩酊するほど、酒に弱くはないよ!」と言って、一向にこちらの言葉を聞き入れようとはしてくれない。
(まったく……)
宵闇を溶かしたような色合いの髪と、光り輝くサファイアのようなロイヤルブルーの瞳をお持ちの王太子ことオーギュスタン殿下の計らいで、王城の一室を貸し切り成人祝いと称して私たち三人だけで酒を酌み交わしているのをいいことに、ユゲットが好き勝手していて困っているのだが。この場の主である殿下がそれを容認してしまっているため、私がこれ以上変に口出しすることもできなかった。
そもそも成人祝いと銘打っているというのに、実際にはユゲットが大量の酒を持ち込んで消費しているだけなので、もはや誰のための何の会なのかもよく分からなくなってしまっているのだが。それでいてオーギュスタン殿下が酒を口に運ぶペースも普段よりはずっと早いので、こちらも念のため気にしておかなければならないのだ。
(私も一応、成人を迎えた側なのだが)
それを言ったところで、この年齢不詳の魔女には一切通用しないことだろう。むしろ若いのだからもっと飲めるだろうなど言いかねないのだから、本当に恐ろしい。
だが、彼女の気持ちも分からなくはないのだ。ここのところオーギュスタン殿下は毎日のようにかわるがわる訪れる、国内の貴族や各国の王族の方々からの成人祝いの挨拶を受けるのに忙しく、私も私で成人してすぐに嫡男として父上が持っていた侯爵位を譲られるのと同時に、外交のため長く屋敷を空ける予定の当主の代理としてまずは最低限必要なことを教わるため、屋敷の内外で常に父上と共に行動し様々なことを吸収しなければならなかったのだから。こうして何の気兼ねもなく三人で集まることすら、本当に久々なのだ。ユゲットが浮かれてしまうのも、ある種仕方のないことだと言えるだろう。
「アタシと出会った頃で、ようやく十六歳だったはずだろう? あれからもう二年も経つのか。本当に一瞬だったねぇ」
しみじみと呟いているユゲットだが、寿命という概念があるのかすら不明なほど長寿な彼女からすれば、確かに私たちとは時の流れの感じ方が違うのかもしれない。
確かに最初にユゲットに出会ったのは、オンピーア帝国に留学してすぐの頃だった。殿下が婚約者である帝国の姫と仲を深めている間、私は少しでも豊かに発展している帝都内を見て回り一つでも多くのことを吸収しようとしていた、そんな時。
「まさか街で突然魔女に声をかけられるような事態に遭遇するなど、人生の中でもそうあることではないだろうし今後もこれ以上はないだろうから、おそらくあの時の一度のみだろうね」
見ない顔だと言われ、いきなり横から肉の串を差し出された時には、どう対処すべきかと本気で迷ったのだが。周囲の人々から口々に「魔女様」だとか「ユゲット様」と呼ばれ慕われている様子だったので、とりあえずあの時はありがたく串を受け取っておくことにしたのだったなと、私も懐かしくなりながらユゲットと初めて出会った時のことを思い出す。
そこからなぜか帝都の街に出るたびに顔を合わせるものだから、気が付けば知り合いから友人になり、今では親友と言っても過言ではないほど気の置けない仲になっているのは、本当に不思議なことだと思う。人生、何が起こるか分からないものだ。
「大陸中から物が集まり何でも手に入る帝都にいたにもかかわらず、よくユゲットは私たちと共にこの国に来ようと思ったよね」
いつの間にか空になっていた手元のグラスに、オーギュスタン殿下が手近にあった赤ワインをご自身の手で注ぎつつ、感心と疑問が混ざったような声色でそう問いかけながら会話に混ざる。
(……いや、待て。殿下のグラスは、いったい何度空になっている?)
その様子を何とはなしに見ていたが、ふとその事実に思い至って若干焦った。記憶を失くすほど泥酔した殿下のお姿を見たことはないが、明日も執務があり休日ではないのだから、こちらもほどほどでやめていただかないと困る。場合によってはなぜ止めてくれなかったのかと、こちらに苦情が来る可能性も考えられるのだから。
(外務大臣である父上がすでに外交のため他国へと向かわれているこの状況下で、必要以上に時間を取られてしまっては仕事が片付かないだろうからね。仕方がない)
今のうちから未開封のボトルをさり気なく回収して、どこか目につかない場所に集めるか下げさせてしまおうと考えながら、私も手元のグラスに入っている白ワインを軽く口に含んだのだった。




