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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
第四章 今日も愛をささやかれています。

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10.魔法の真実

「私があの日、ユゲットにかけられた魔法は二つ。一つは先ほど伝えた通り、心から想う女性に対して愛をささやいてしまうというもの。そしてもう一つは、その女性以外には愛の言葉を一切口にできなくなるというもの」

「え!?」


 ユゲットがかけた魔法は一つではなかったという事実にもだが、最後に聞かされた二つ目の魔法の内容がフェルナン相手では大変致命的であったことに気付いてしまったソフィアは、思わず驚きの声を上げてしまう。

 そもそもフェルナンにはその時点で、婚約者候補が何人か存在していたはずなのだ。そのことはユゲットだって知っていたはず。にもかかわらず、そんな魔法をかけられてしまっては――。


(婚約が決定したお相手と仲を深めることが難しい状況だった、ということよね)


 それは図らずも、ソフィアが初めて説明を受けたあの日に思ったことと全く同じだった。つまり困っていたのも本当で、確かに彼の言う通り嘘をついていたわけではないということ。

 そのことを証明するかのように、フェルナンはさらに言葉を続けた。


「当然私も今後に影響が出るからと、ユゲットに何度も説明して魔法をすぐに解除するよう説得しようとしたのだけれどね。むしろ彼女は自分で魔法を解く気は一切なく、どうしてもというのならば設定した条件を満たすしかないと言い出したんだ」

「条件、ですか?」


 疑問に思った部分は他にもあるが、まずは一番気になったところから質問してみようとそう口にして首をかしげたソフィアに対して、フェルナンは目をそらしつつ若干困ったような表情になりながらも、彼女の問いに対する答えを返す。とはいえ、珍しく言いにくそうな様子で、歯切れの悪い調子ではあったが。


「その、なんというか……。ユゲットはどうしても、私の恋を成就(じょうじゅ)させたかったらしくて、ね」

「?」

「酔いもあったせいか、オーギュスタン殿下まで悪乗りしてユゲットに賛同するものだから、私では二人を止められなくて……」


 そこで一度言葉を止めて、要領を得ず首をかしげたままのソフィアにちらりと視線を向けると、みるみるうちにフェルナンの頬が赤みを帯び始める。だがそれを隠すように目から下を片手で隠しながら、まるでソフィアの真っ直ぐなまなざしから逃れるかのように彼女とは反対方向へと視線を向けると、まだどこかためらいを残しながらもこう告げたのだった。


「だから、その……。私が心から愛した女性と想いを通わせて結ばれない限り、魔法は解けることはない、とユゲットが……」

「…………っ!?」


 その言葉の意味合いを正確に受け取った瞬間、どうしてフェルナンがこんなにも言いにくそうに答えてくれたのかまで理解できてしまって、ソフィアまで顔が赤くなってしまう。むしろ顔どころではなく一気に全身が熱くなってしまったせいで、ソフィアまでフェルナンから顔を逸らしてしまって。応接間の中の雰囲気は、一気に甘酸っぱいものへと変化した。

 つまりこの魔法は、最初からソフィア一人だけが対象だったのだ。フェルナンにかけられた魔法の真実とは、友人の長年の恋心を叶えようとした魔女ユゲットによるお節介。だから彼女は以前こう言っていたのだ。ソフィアだけが「フェルナンが愛をささやいても問題ない人間」なのだと。

 だが、そこでソフィアはユゲットと会話した時のことを思い出し、気恥ずかしさを隠すように先ほど感じた疑問と共に、その事実をフェルナンへとぶつける。


「で、ですがっ、ユゲット様は当時酔っていらしたはずですよね!? それに以前お会いした際に、私よりも先に使用人の女性の一人に同じお役目を任せていたとお聞きしましたっ。なので元々は、不特定多数の女性に向けて愛をささやいてしまうようなものだったのではないでしょうか……!」


 勢いと早口だけで言い切ったソフィアは、そのまま顔を上げられずにいたのだが。


「…………は……?」


 しばらくして頭の上から降ってきたその声は、心底意味が分からないというような雰囲気を(かも)し出していて。


「確かにユゲットも相当飲んでいたし、酔ってはいただろうけれど……彼女の場合は完全なる確信犯で、面白半分だったのは紛れもない事実なんだけれど、ね。それよりも私は、その使用人云々(うんぬん)という話が気になるのだけれど? 当事者のはずの私ですら、完全なる初耳なのだが?」

「…………え?」


 二人で顔を見合わせて、お互いがお互いに頭の中に疑問符を浮かべている状態に、先ほどまでの甘酸っぱい空気は欠片も残っておらず。むしろ徐々に細くなっていくフェルナンのアメシストの瞳は、静かな怒りと苛立ちを含んでいるようにも見えた。


「ねぇ、ソフィア。その話、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」


 そうして、なぜか笑みを浮かべながら問われたその言葉に。


「は、はいっ! もちろんですっ!」


 どこか恐ろしさを感じて、逆らってはいけないと直感的に理解したソフィアは、今までにないほどの速度でそう返答していた。



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