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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
第四章 今日も愛をささやかれています。

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6.初恋は実らない

 予想外の言葉に驚きすぎたのか、時が止まったかのように呼吸さえ忘れて固まってしまったフェルナンに対して、ソフィアは思うのだ。あぁ、やはりそうなのか、と。

 そもそもにして彼の婚約者が今も決定していない一番の理由は、決定権を持つアマドゥール公爵が外交のためしばらくの間屋敷を留守にするどころか、国からも出てしまっていたことにある。いくら決まりがあったとはいえ、十八歳という成人を迎えこれだけの時間が経った今でも発表がされていないなど、本来のフェルナンの立場を考えれば普通ではない。ソフィアのような貧乏伯爵家の令嬢ならば話は別だが、彼は外務大臣の息子であり跡継ぎなのだ。であれば、成人と同時に婚約者の正式発表がなされていてもおかしくなかったのだから。


(当時はおそらく、公爵様が他国との外交を控えていらっしゃっている時期でお忙しかったからこそ、先延ばしになっていたのでしょうけれど)


 今はもう、そうではない。となれば、フェルナンの隣に立つべき人物の選定も進んでいただろうし、あとは発表を待つだけの段階に入っていたとしても不思議ではないのだ。

 だからこそ動きを止めてしまっているフェルナンに対して、ソフィアは口にする。自分の本心を隠しつつも、エメラルドグリーンの瞳を真っ直ぐに目の前の人物に向けながら。


「私の存在は、フェルナン様が婚約者となられたお方と仲を深める際、確実に邪魔になってしまいます。なにより愛の言葉は、今後は私ではなく正式な婚約者様に向けられるべきものですから」


 だからもう、自分の存在は必要ないはずだと。様々な感情を必死に押し殺しながら、淡々と告げたそれに。


「ち、違うんだっ……! 確かに婚約者を選ぶべき時期ではあるけれど、ソフィアが邪魔になるなんてことはなくて、むしろっ――!」

「いいえ。私が婚約者様の立場であれば、どんなにユゲット様の魔法のせいだと説明されたところで、きっと本心からの納得なんてできません」


 フェルナンが必死に否定しようとしてくるが、それをソフィアはあっさりと否定する。


「ですからどうか、今後は婚約者様に愛をささやいてください。それならば問題はないでしょうし、最悪魔法が解けなくても今までと同じだと考えれば、フェルナン様が本気で困るようなことはないはずですから」


 これからはきっと自分ではない、身分や教養の釣り合う誰か別の女性が彼の隣に立ち、愛をささやかれるようになる。ソフィアはその光景を想像して今すぐにでも泣き出したい気分になってしまうのだが、それは奥歯を噛みしめることで必死にこらえる。

 最初から、おかしな組み合わせだったのだ。接点など何一つない貧乏貴族の令嬢が選ばれたのは、ただそれが最も問題が起きないとユゲットに判断されたから。

 確かにこれが全て釣り合うような、それこそ婚約者候補に入っているような令嬢だった場合には、その後本当に婚約者にならない限りまた厄介な状況になっていた可能性もあっただろう。だが、ソフィアならば話は別だ。本人達だけでなく、周囲の目から見てもどう考えても釣り合わない存在であれば、問題など起きようはずがないのだから。


(そう。だから私は、ユゲット様に選ばれた。フェルナン様にかけられてしまった魔法を解くための、都合のいい存在として)


 事実、領地経営のため借金をしていたブランシェ伯爵領にとって契約内容はまたとないチャンスでもあり、同時に破格の金額だった。自分たちだけではそう簡単には稼げないほどの額が、契約を結ぶだけでも手に入るというのだから、受けないという選択肢などあり得ない。きっとそれも含めて仕事として割り切れる人物だから選ばれたのだろうと、ソフィアは今でも信じて疑っていないのだ。


「……そう、だね。確かに婚約者相手であれば、今後はどこでどんなに愛をささやいていたとしても、誰にも文句は言われないだろうね」

「……はい」


 その説得を受けて表情が見えないほど俯いてしまったフェルナンだったが、その返答はソフィアが求めていたものでもあった。だから同じように俯きながらひと言そう返しつつ、これでよかったのだとソフィアは無理やり自分を納得させる。フェルナンが納得してくれたのだから、これでもう本当に縁は切れてしまう。もちろん最後まで手助けできなかったことは心残りだけれど、これ以上彼の側にいてはこの想いを閉じ込めておくことはできなくなってしまうだろうから、と。

 初恋は実らないとは、どの本で読んだ一文だっただろうかと考えながら、その通りだとソフィアは心の中で一人頷くのだ。遅すぎる初恋ならば、なおさら実る可能性は低いに決まっているだろうと、胸を刺す痛みに耐えながら。


 フェルナンが立ち上がる気配がする。

 戻る予定のない自分との話はここまでで、今日はもうこのまま帰ってしまうのだろう。今後のことについては、手紙でのやり取りで十分のはずだ。せめてアマドゥール公爵からの謝罪だけは、後日どこか改めてということにしてもらうべきなのかもしれない。

 そんなことを考えていたソフィアは、フェルナンの次の行動を全く見ていなかった。だからこそ、気付けなかったのだ。


「……え?」


 膝の上に置いて握りしめていた手に、そっと大きくてあたたかい手が触れて。そこではじめて、ソフィアはフェルナンがすぐ側で片膝をついていることを知ったのだから。

 けれど、直後に襲ってきた驚きはそれの比ではないほど大きく。


「ソフィア。私の愛しい人。どうか、私の婚約者に……いや。私と、結婚してほしい」

「…………!?」


 さすがのソフィアでも、その意味を理解するのに若干の時間を要することとなってしまうほどの内容だった。



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