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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
第四章 今日も愛をささやかれています。

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5.予想外

「ウラリーは私のために動いてくれていたのですが、あのあと彼女は……」

「もちろん今も屋敷の中で、ソフィアが暮らす場所を整えて待っているよ。彼女は私に与えられた指示を忠実に守っていただけだからね。むしろ今回のことを受けて、給金の引き上げだけでなく立場的なものも見直す予定でいるんだ」


 だから安心してほしいと柔らかな笑顔で告げられ、ずっと気になっていたことがここでようやく解消する。

 あの日、ウラリーは使用人であるにもかかわらずソフィアを守るために、果敢(かかん)にも屋敷の主であるアマドゥール公爵へと進言(しんげん)しようとしていた。もちろんその言葉はすぐに封じられてしまったのだが、それでも意見を求められたわけでもないのに横から口を出してしまった彼女が、その後罰を与えられてしまっていないかと心配していたのだ。

 もちろん公爵の意識を彼女から逸らせるために、あの場で自分にできることは全てやったつもりではいたのだが、最後まで確認できなかったことはソフィアの心の中で小さなしこりとなって残り続けていた。だからこそ、フェルナンの口から今のウラリーの状況についての詳細が出てきたことに、ソフィアは心から安堵する。

 そんな彼女の様子や心の内を見計らったのか、それとも初めからそのつもりだったのか。真剣な表情を浮かべながら、フェルナンはソフィアへとこう言葉を続けた。


「だからね、ソフィア。私もウラリーも、君が戻ってくることを心から望んでいるんだ。父上も失礼なことをしてしまったから直接謝罪がしたいと言っているし、どうかもう一度だけ私たちに挽回するチャンスをもらえないだろうか?」


 アマドゥール公爵家の嫡男としての苦労を聞いたおかげか、最初の頃よりは公爵からの直接の謝罪という言葉にも、それほど抵抗感を覚えることはなくなってきていたものの。それでもやはり、まだいくつか気になる点は残っている。


「ソフィア、どうか戻ってきてほしい。私は君でないとダメなんだ」


 まるで縋るようにそう言いながら見つめてくるアメシストの瞳を、どうしても見つめ返すことができなくて。そっと視線を逸らしながら、それでもソフィアはハッキリと疑問を口にした。


「でしたら、なぜ……お戻りになられてから一度も、お手紙をくださらなかったのですか?」


 それはこの半月の間、ずっとソフィアの心を(むしば)み続けていた問いかけそのものだった。もしもフェルナンにとって、どんな理由であれソフィアが本当に必要な存在なのであれば、必ず届けられていてもおかしくなかったはずのそれは。結局、ただの一度も手元に届くことはなかったのだから。

 両手でスカートをギュっと握りしめているソフィアの姿に、一瞬言葉を失ったかのようにフェルナンが息を飲んだ音が、応接間の静寂の中に落ちた。だがその重苦しい空気を振り払うかのように、フェルナンはでき得る限り優しい声色で、けれど少しだけ言いにくそうにしながらソフィアへと語りかける。


「その……ごめんよ、ソフィア。本当はすぐにでも、手紙と言わずこうして駆けつけたかったのだけれど……。普段とは明らかに違う私の様子と、魔女の魔法などという突拍子もない話が出てきたせいで、父上が精神干渉を受けているのではないかと疑い始めてしまって……」

「…………え……?」


 そうして出てきたまさかの事態に、予想外すぎて驚きが勝ってしまったソフィアは思わず顔を上げて。せわしなくあちらこちらへと視線を向けながら、言葉を選ぶように説明を続けるフェルナンの顔を、その鮮やかなエメラルドグリーンの瞳で凝視してしまった。


「執務以外での他者との接触を禁止されて、父上の指示を受けた使用人を監視としてつけられてしまってね。ユゲットや、他の魔法使いたちからも精神干渉など受けていないという証明をするのに、想像以上の時間を要してしまったんだ」


 さらには魔女の魔法という点に関しても、ユゲット本人の口から聞かなければ納得できないと言われてしまい、二人の予定を調整するのにも手間取ってしまったのだとフェルナンは語る。


「全てが明らかになるまで、ソフィアへ手紙を出すことも会いに行くことも禁止されてしまってね。実際、どこかの隙を見て出そうとしたためていた手紙も、いつの間にか没収されてしまっていたんだよ」

「……」


 すでに成人を迎えている男性に対して、その対応は過保護すぎるのではないかとも、一瞬頭の片隅を過ったのだが。目の前にいる人物が今後デュロワ王国の重役に就く予定なのだということを思い出して、今から不安要素は全て取り除いておきたいと考える公爵の気持ちも、全く理解できないわけではないと考えてしまったソフィアである。

 そうしてふと、気付いてしまったのだ。


(あぁ、なるほど。公爵様は、そのことについても謝罪したいと考えていらっしゃるのかもしれないわね)


 息子のためにわざわざ領地から出てきてくれていた令嬢を屋敷から追い出し、疑念が晴れないからと手紙を出すことも許さず、そのせいで真実を伝えるのがこんなにも遅くなってしまった。だからこそ、直接の謝罪にこだわっているのだろう。なにせ謝罪しなければならないことが多すぎて、手紙では真意や真剣さが伝わりにくい可能性もあるのだから。

 それ以前に、全てに対して事前の説明がなければ公爵のどの行動が誰の何に影響していたのかも分からないこの状況では、手紙に書くには何枚の便箋が必要になるのかも、もはや予想がつかない。


「ユゲットを屋敷に呼んで最初から説明させて、ようやく父上を納得させられたのが昨日のことだったんだ。あまりにも日数が経ちすぎているし、手紙などよりも私が直接赴いたほうが説明も早いからと父上から特注の馬車の使用の許可をもぎ取って、それで今日こうしてブランシェ伯爵領へと急いでやってきたという次第なんだ」


 分かりやすい説明のおかげで、なぜ手紙が一切届かなかったのかも、なぜ今ここにフェルナンがいるのかも、しっかりと理解できたソフィアではあったが。


「これが、私がデュロワ王国に戻ってきてからの全てなのだけれど、ソフィアの問いに対する納得できる答えになっているだろうか?」


 残念ながら彼のその言葉には、まだ素直に首を縦に振ることはできない。


「いいえ。まだ、お聞きしたいことがございます」

「もちろん、いくつでも質問してくれて構わないよ。ソフィアに安心して戻ってきてもらえるのであれば、どんな問いにも答えてみせるから」


 ソフィアの返答の仕方に、まだ可能性は残されていると感じ取ったのか、フェルナンにしては珍しく前のめりになりながらそう告げてくるのだが。久々に魔法の効力が発動しかけているのではないかと感じ始めていたソフィアは、どこか胸の痛みを感じながらも感情を押し殺し、(つと)めて冷静にこう問いかけたのだった。


「アマドゥール公爵様がお戻りになられたということは、フェルナン様の婚約者候補の方々の中から、正式にお一人が選ばれる時期のはずですよね?」



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