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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
第四章 今日も愛をささやかれています。

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4.原因と理由

「もちろん今回の父上の行動を擁護(ようご)することはできないけれど、ただ一つだけ弁解させてもらえるのなら、少しだけ昔話に付き合ってもらってもいいかな?」

「昔話、ですか?」


 驚いてばかりいるソフィアには先に説明が必要だと結論づけたのか、そう問いかけてくるフェルナン。それに対して首をかしげながらも、すでにソフィアは聞く態勢に入っていた。


「そう、昔話。情に訴えるわけではないけれど、ソフィアには話しておくべきだと思うんだ。どうして父上が、誰の意見にも耳を貸そうとしないまま君を屋敷から追い出したのか、その根本的な原因と理由を」


 情に訴えるわけではないと口にはしつつも、結果としてはそうなってしまうような内容なのだろうと理解できてしまうソフィアではあったが、気になる部分でもあるので素直に頷く。


「私がお聞きしてしまっても、問題のない内容なのでしたら」

「ありがとう」


 そもそもソフィアはアマドゥール公爵に怒りの感情など持ち合わせていないので、なおさら興味が勝ってしまったようなものではあるが。その返答にフェルナンはホッとしたように微笑んで、一度小さく深呼吸をしてから口を開いた。


「ソフィアも知っての通り、我がアマドゥール公爵家は代々外務大臣という重要な役職の一つを担ってきた。それは大きな重責が伴うものだけれど、同時に国のために自ら決断し動くことができるという、とても名誉あることでもある。陛下からの覚えもめでたく、ありがたいことに他家からも信頼を寄せてもらえているのだからね」


 神秘的なアメシストの瞳は、その事実を誇りに思っているのだとソフィアでも分かるほどに輝いていた。しかしその次の言葉を紡ぐ直前、その輝きは一気に陰りを見せる。


「だがその反面、どうしても我が家と縁続きになりたいと考える家も多く、様々な問題に巻き込まれることも多くてね。実は今回のことも父上の勘違いだったとはいえ、私のことを守ろうとして取った行動の一環だったんだ」


 困ったような笑みを浮かべながら語られたのは、高位貴族の嫡男だからこそ起きる災難の数々だった。

 フェルナン(いわ)く、アマドゥール公爵家の婚約者候補選びは毎回難航し、そのたびに女性関係のトラブルがついて回るのだという。事実フェルナンも、学園入学前に出席したお茶会でとある令嬢に気に入られ異様に執着されたことがあり、その際には大変な苦労を強いられたそうだ。また彼の父親であるセヴラン・アマドゥール公爵に至っては、まだ婚約者候補が決定するより前の若い頃に大勢の女性に言い寄られただけでなく、学園在籍中に付きまとい行為をしてくる女生徒や、中には一時帰宅していることを知って屋敷にまで突撃してくる人物まで存在していたというのだから、その苦労は計り知れないものがあったのだろう。

 そしてだからこそ公爵は、息子と歳の近い令嬢に対して普段以上に警戒してしまっていたのだとフェルナンは言う。


「あの日も父上は、どうやらソフィアのことをそういった令嬢の中の一人だと誤解してしまっていたようなんだ」


 けれどそれを聞かされれば、ソフィアも納得してしまう。確かにそれは、必要以上に警戒して当然だろう、と。


「しかも運の悪いことに、長期間国外へと出ていた父上を陛下が心配してくださって、その日は執務をせずに先に体を休めるようにと指示を出された父上は執務室に寄ることなく、そのまま屋敷に戻ってきてしまったんだよ」


 フェルナンは万が一の時のことを考え屋敷の執務室だけでなく、王城の執務室にもユゲットから受けた魔法についてやソフィアのことに関しての詳細が書かれた手紙を残していたそうなのだが、それらは一切公爵の目に触れることのないままソフィアと遭遇してしまったのだという。

 当然のことながら、屋敷の使用人たちを取り仕切っている家令(かれい)はそのことを知っている。そしてアマドゥール公爵という人物の人となりもよく知っていたため、まさか今回に限って執務室にすら寄らずに帰ってきているなど、思いもしなかったのだそうだ。

 結果、誰もが公爵はソフィアのことをすでに知っていると勘違いしており、あえてそのことを伝えるような人物も存在しないまま、あの瞬間を迎えてしまったのだという。


「ウラリーが急いで家令の元へ事実確認のために向かってくれたのだけれど、それよりも先に父上はソフィアを屋敷から追い出してしまっていてね。間に合わなかったと、彼女も相当落ち込んでいたよ」


 つまり、不運に不運が重なった結果の事故だったというわけなのだと、ソフィアは今ようやく理解して。だからこそアマドゥール公爵からも、直接謝罪がしたいと言われているのだと納得した。確かにそれならば、アマドゥール公爵家から迎えの馬車が来るのにも頷ける。

 だがここで、ソフィアの中にはまた別の疑問が湧き上がってくる。


(それならばフェルナン様が直接いらっしゃらなくても、お手紙をいただければ十分なはずでは……?)


 しかしそのことを口にするよりも先に、ちょうどいいタイミングだったのでまずは確認しておくべき事実について質問することにしたのだった。



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