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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
第一章 とっても簡単なお仕事です。
5/104

5.恐ろしい魔法

「そもそもの始まりは君も知っている通り、殿下と共に留学したオンピーア帝国で出会った魔女と友人となり、彼女の希望でこのデュロワ王国への入国証明を発行したことにある」


 太陽と月に例えられる王太子とフェルナンが、帝国から魔女を連れて帰ってきたという話は有名だった。前代未聞の出来事だったことと相手が魔女という特別な存在であったことが重なり、瞬く間に国中にその噂が広がったのだ。

 とはいえ、そのほとんどが好意的なものばかりだったのはきっと、今までの彼らの評判と魔女の対応がよかったからだろう。

 また、デュロワ王国が国家間交流が盛んな国であることも、幸運だったのかもしれない。その証拠に、今では王都で暮らしているという魔女をわざわざ排除しようとする動きなど聞いたこともなく、むしろ知恵を(さず)けてくれる人物だと重宝されているのだという。


「決して彼女自身に悪気があったわけではないことは、私自身も分かっているんだ。だがあの日、殿下と私の成人祝いだからと飲みすぎたユゲットは、面白半分に私に魔法をかけてしまった。記憶を失くしてしまうほど飲んでいる状態の、しかも個人的に集まった、三人だけの席で」


 今にも頭を抱えてしまいそうな様子のフェルナンからすれば、魔女のその行動は本当に予想外だったのだろう。

 ソフィアの耳にも届いている、魔女ユゲットの噂。褐色(かっしょく)の肌に赤い瞳、そして(くせ)のあるオレンジブラウンの髪を持つその人物は、わずかな期間で大勢の人々の相談に乗り、そして問題を解決してきた賢者のような魔女だと。今や彼女に相談さえできれば、解決しない問題は一つもないとまで言われている。

 ちなみにそれとは別に、大変女性らしい曲線美が特徴的な人物だという噂も耳にしてはいるのだが。それはあまり自分には関係ないことだろうと、ソフィアはそこまで深くは考えていなかった。

 そんな魔女本人が、解決できない問題を作り出してしまった。

 幸いなことに、その場は完全な非公式。ゆえに誰に(とが)められることもなく、噂が広まるようなことにもなっていないのだが。本人にすら()けない魔法をかけられてしまったフェルナンとしては、非常に困っているという状況なのだ。


「あの、侯爵様。その魔法の内容というのは……」


 聞きたいような、聞きたくないような。複雑な心境のソフィアではあるが、ここをハッキリとさせておかなければ先に進めないこともよく分かっていた。なにせソフィアが今ここにいる理由こそが、その魔法を解ける可能性があると魔女に指名されたからなのだから。

 鮮やかなエメラルドグリーンのような瞳を、まっすぐにフェルナンに向けて。けれど少しだけ控えめに問いかけたソフィアの言葉に、彼は神秘的なアメシストのような瞳を目蓋(まぶた)で一度覆い隠してしまってから。やがて覚悟を決めるように、小さくため息をついて、こう口にした。しっかりと、ソフィアの視線を受け止めながら。


「女性に対して定期的に愛をささやいてしまうという、恐ろしい魔法だよ」

「っ!!」


 その言葉に驚愕(きょうがく)のあまり、ソフィアは口元を両手で覆ってしまった。それほどまでに、衝撃的な内容だったのだ。

 そもそも外務大臣アマドゥール公爵の嫡男(ちゃくなん)であるフェルナンには、特定の婚約者というものが存在していない。というのも彼は幼い頃から、第一王子であるオーギュスタンが王となった未来の時代の外務大臣、つまりは重役を任されることになるであろうと(もく)されていたからである。デュロワ王国ではそういった人物に対して、癒着(ゆちゃく)や不正を防ぐため、正式に成人するもしくは爵位を継ぐまでは、婚約者を決定してはいけない決まりがあるのだ。

 そのため彼にも一応婚約者候補となる人物は存在していたのだが、いまだに決定の発表はなされていない。その理由は(おも)に、フェルナンの父である現アマドゥール公爵が現在、外交のため国外へと出ているからであると、誰もが思っていたのだが。


「こんな状況では、まともな生活などままならない。発作(ほっさ)のように愛をささやき、かつ相手が婚約者ですらないともなれば、混乱と誤解を招いてしまう。魔法というよりも、呪いと言ったほうが正確かもしれないね」


 確かにそれは、大変な事態を招くことになるだろう。そしてこのままでは、婚約発表どころではない。むしろこの状態のまま、万が一にも他の女性に愛をささやいている姿を婚約者となった令嬢に見られてしまえば、最悪縁談が破談となってしまう可能性だってあり得るのだ。フェルナンの言う通り、これは大変恐ろしい魔法だろう。


「そんな魔法を、どうやって私が解くのでしょうか……?」


 ソフィアが不安そうな視線をフェルナンに向けるのは、当然のことだった。そんな重要な役割を任されて、不安になるなというほうが無理な話ではある。

 だが、そんなソフィアにフェルナンは優しく微笑(ほほえ)みかけると。


「心配しなくてもいい。ユゲットには、とにかく私にかけた魔法の効力全てを君に向ければいいと言われているんだ」

「魔法の効力、全て……」


 それは、つまり。


「だから私は、今日から君にだけ愛をささやくよ、愛しい人」

「……!?」


 不意打ちのように告げられた真実に、すぐには頭が追いつかないまま。柔らかな笑みと優し気なアメシストの瞳を向けられたソフィアは、その鮮やかなエメラルドグリーンのような瞳を大きく見開いたのだった。



 今日もまたブックマーク数が34件に増えていて、しかもよくよく見たら総合評価もすでに100ptをとうに超えていました…!

 本当に本当に嬉しいです!ありがとうございます!(>ω<*)


 ただ、毎日こうして後書きに色々と書いてばかりいると、それはそれで物語を読む際に邪魔になってしまうかもしれないので…。ひとまず今日でいったん後書きは、しばらくの間は書かないように気を付けようと思います(^^;)

 毎回後書きが邪魔だなーと思っている方には、大変失礼いたしましたm(_ _;)m



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