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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
第三章 噂の魔女様の登場です。

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18.気安げな二人

「いえ、あの……フェルナン様……?」


 まさかこんなタイミングで魔法の効力が発揮されることになるとは思ってもみなかったソフィアは、先ほどとはまた違う意味合いでの困惑を覚えて、真っ直ぐに向けられるアメシストの瞳を見上げるのだが。


「雪原を彷彿とさせるようなスノーホワイトの髪も鮮やかなエメラルドグリーンの瞳も、透けるような肌もその淡い唇も、その全てが私を惹きつけてやまないというのに……! そんな君が、ユゲットに魅力で劣るわけがないだろう? 少なくとも私からすれば、ソフィア以上に美しく魅力的な女性はいないよ」

「~~~~っ」

「おやまぁ、これはこれは」


 興奮気味に言葉を続けるフェルナンは、逃がさないとばかりに優しくソフィアの頬を両手で包み込むと、それはそれは愛おしそうな視線を向けて恥ずかしげもなくそう言い放ってみせる。当然ソフィア自身は恥ずかしすぎて目線を合わせることなどできず、最終的には顔を真っ赤にしながらギュっと目蓋を閉じてしまっているし、逆にその様子を初めて間近で見たユゲットは、どこか楽しそうにニヤニヤとした笑みを浮かべながら満足そうに頷いていた。

 長々と語り出しそうなフェルナンを誰も止められず、収取がつかなくなりそうなこの状況下。けれどその雰囲気を一気に変化させることになったのは、意外な人物からの知らせだった。


「フェルナン様、ご歓談中に申し訳ございません。王宮よりオーギュスタン殿下の使者がいらしておりまして、本日の書類の内容に不備があったと――」

「何だって」


 言葉通り申し訳なさそうな表情をしながら近付いてきた一人の男性使用人が、スッとフェルナンのすぐそばに立つとそう報告してくる。だが、その言葉を全て言い切るよりも先に主であるフェルナンに反応されてしまった彼は、持っていた手紙をそっと差し出した。それを黙って受け取り目を通すフェルナン。


「……なるほど、分かった」


 一瞬だけ眉をひそめた彼は、けれどすぐに仕事の顔へと切り替えて、使用人に手紙を返すと。


「私は少しだけ追加の仕事を終わらせてくるから、先に応接間で待っていてくれるかな?」


 ソフィアとユゲットに向かって、そう告げたのだった。

 先ほどとは全く違うその様子と雰囲気に、羞恥を抱くような状況からようやく解放されたことを悟ったソフィアは、ほっと息をついてその言葉に素直に頷いたのだが。対してユゲットはといえば、少々不機嫌そうな顔をして。


「何やってんだい! せっかくの機会だっていうのに!」


 そんな風に不満そうに告げて、フェルナンの肩を軽く叩いたのだった。その気安げな二人の様子は、確かに友人と呼ぶにふさわしいものだったのだが。


(どうして、かしら……)


 なぜかそこに、友人以上の関係や感情があるのではないかと、ソフィアは感じてしまって。同時にまた胸の奥が、ぎゅっと握りつぶされるような痛みと苦しさを覚えたのだった。

 だがそんなソフィアに気付くことなく、フェルナンとユゲットは二人だけで会話を進めていく。


「私ではなくて、殿下が先方から渡されていた書類に不備が見つかったらしい。こちらで訂正できる部分だけでも修正してあちらに確認を取りたいということだったから、そこまで時間はかからないよ」

「なんだいなんだい、気が利かないねぇ。オーギュスタンもフェルナンも、アタシが今日をどれだけ楽しみにしてたと思ってるんだい」

「仕方がないだろう、急ぎの仕事なのだから。それに今日のユゲットの一番の目的は、ソフィアへの謝罪だったはずだろう?」

「それとこれとは別じゃないか。アタシはね、どれだけアンタが彼女にぞっこんで素直に言葉にできてるのかを確かめに――」

「聞いていた目的と全く違うじゃないか!」


 話が違うとばかりに詰め寄っているフェルナンと、それを飄々(ひょうひょう)とした様子で受け流しているユゲットのやり取りを、どこか疎外感を抱きながらもなんとなく見ていたソフィアは気付いてしまった。心から楽しそうに笑っているユゲットが、ふとした拍子にフェルナンのことを優しいまなざしで見つめている瞬間があるのだということに。


(……あぁ、もしかして)


 だから彼女は、こう考えたのだ。


(魔女様は本当は、フェルナン様に想いを寄せていらっしゃるのではないのかしら)


 酔った状態でおかしな魔法を彼にかけてしまったのも、その気持ちの延長線上にあったのではないか、と。そう考えれば自然ではあるし、なにより本当は自分にこそ愛の言葉を向けてほしいとユゲット本人が願ったのであれば、酒の席の勢いに任せてしまっていたとしても不思議ではない。

 などとソフィアが考えているとは思いもしていない二人は、いまだ軽く言い合っていたが。


「とにかく、先に応接間に行っていてくれ。くれぐれも、ソフィアに余計なことは言わないように」

「はいはい。まったく、信用がないねぇ」

「それは普段の言動のせいだろう? いったい誰のせいで、ソフィアを領地から連れ出してしまうような事態になったと思っているんだ」

「そこに関しては、ちゃんと謝るつもりで来たんだよ」


 そう言いながら軽くため息をついたユゲットを、フェルナンは軽く睨みつけると。


「とにかく! おとなしく待っていてくれっ、頼むからっ。ソフィアも悪いけれど、ユゲットと先に応接間に行って待っていてほしい。なるべく早く終わらせて、すぐに私も向かうから」


 ユゲットには忠告を、ソフィアには軽い謝罪と要望を伝えて、足早にどこかへ立ち去ってしまった。

 残された二人はというと、お互い顔を見合わせて。


「仕方がないね。言われた通り、おとなしく待っていようか」

「はい」


 言葉通りに仕方がなさそうな表情で肩をすくめたユゲットの言葉に、ソフィアは苦笑しつつも頷いてから。


「こちらです。どうぞ」


 彼女を応接間に案内するため、ひと言そう声をかけてから調度品の並ぶ長い廊下を歩き出す。

 その姿がまるで屋敷の女主人のように見えていることに、ソフィア本人だけが気が付かないまま。どこか楽しげな様子のユゲットは満足気な笑みを浮かべながら、そのあとに続いて歩き出したのだった。



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