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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
第一章 とっても簡単なお仕事です。
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4.フェルナン・アマドゥール

 満月のような優しいクリームイエローの髪と、神秘的なアメシストのような瞳の持ち主で、その髪色と王太子の右腕という事実から、世間では月に例えられることもある人物。

 そう。彼こそが、今回の依頼主。外務大臣であるアマドゥール公爵家の長男、フェルナン・アマドゥールその人だった。


(噂は、色々と耳にしたことがあったけれど……)


 実物は噂以上に、とても優しそうな笑みをその顔に浮かべていて。けれど同時に、大変まじめな性格だと言われているのも、ソフィアには何となく理解できた。なにせ自宅にいるこの時ですら、前髪をしっかりと上げて後ろに流しているのだから。


(急な呼び出しに応じる可能性もあるから、なのかもしれないけれど。少なくとも学園内では、ほとんどの男子学生が普段通りの髪型だったもの)


 そもそも前髪を上げるにも、専用の油やクリームが必要になる。高価なものではないとはいえ、日常的に使用していればそれなりの金額にだってなってくるだろう。さらには落とすのにも大変苦労するような代物であったため、基本的にはドレスコードと同じように仕事や夜会の際のみの、限定的な髪型とする貴族がほとんどだった。

 それをこんな日常で、しかもただの伯爵令嬢と会うだけのような場面にまで使用しているような人物が、まじめでないはずがない。少なくともソフィアはそう思ったのだ。同時に、なるほどこれが数多の令嬢が学園時代に憧れた男性の中の一人なのか、とも。


「ソフィア・ブランシェ伯爵令嬢。この(たび)は私の一方的な依頼を受けてくださったこと、心から感謝申し上げる」

「いいえ、侯爵様。私のほうこそ、お話をいただいて大変助かりました。これで領地の経営が、今までよりもずっと楽になりますから」

「そう言ってもらえると、大変助かるよ。君に断られてしまったらどうしようかと、本当に気が気ではなかったからね」


 だが堅苦しいだけではないのも、その話し方からよく理解できた。さすがに外務大臣という家柄の跡取り息子なだけはあり、話術には()けていそうな雰囲気すら感じさせる。少なくともソフィアに柔らかい笑みを浮かべてみせたあとからの口調は、相手を委縮させてしまうようなものでも威圧するようなものでもなく、むしろ親近感さえ()いてしまいそうなものだった。それが意識的になのか、それとも無意識になのかは分からないが、しっかりと相手を見た上で状況に合わせた使い分けができるということだけは間違いない。

 そもそも彼の現在の仕事は、デュロワ王国の第一王子であり王太子でもあるオーギュスタン・デュ=ロワの外交に関わること全てと言っても過言ではない。それに加えてアマドゥール公爵が持っていた侯爵位とその領地を今年、成人と認められる十八歳になってすぐに譲り受けたため、今ではこの年齢で領地経営までしっかりとこなしている立派な侯爵閣下なのだ。


(確か、殿下がご婚約者様である帝国の姫様との交流を深めるために十六歳で留学なさった時にも、ご一緒されていたはず)


 むしろ、今回ソフィアがフェルナンから依頼を持ち掛けられたその理由が、そこにも深く関わっているのだが。手紙に詳細を書きすぎるわけにもいかないということで、ソフィアは大まかな理由だけを知っている状態だった。とはいえ初めてそれに目を通した時には、あまりにも色々と非現実的すぎて、理解が追いつかなかったのだが。

 ソフィアがそんなことを思い出しているとフェルナンが気付いたわけではないだろうが、少し苦笑しつつもハッキリと言葉にして尋ねてくる。


「驚いただろう? あまりにも突拍子(とっぴょうし)のない話で」

「え? いえ、その……」

「正直に言ってくれて構わないよ。そもそも留学先で友人になった魔女に、酔った勢いで魔法をかけられてしまった、なんて。私が君の立場だったら、にわかには信じられなかっただろうからね」


 肩をすくめてみせるその姿すら(さま)になるのは、彼がそれだけ魅力的な見た目をしていることに加え、そういった仕草を普段から嫌味なくしているからなのだろう。とはいえ正直にとは言われても、なかなかソフィアの口から「そうですね」とは言いにくい。

 それを察したのか、それとも初めからそのつもりだったのか。ソフィアにはその正解は分からなかったが、フェルナンはさらに言葉を続ける。


「むしろ私自身、まさかこんな事態になるとは思ってもみなかったからこそ、陛下から許可をいただいて彼女をこの国に招いたんだが……。そのせいで迷惑をかけることになってしまって、本当に申し訳なく思っているよ。と同時に、あんなにも信じがたい内容の手紙だったのに、真摯(しんし)に対応してくださったブランシェ伯爵や君には、本当に感謝してもしきれない」

「いえ、その……紋章は本物でしたし、なによりも大変困っておいでのようでしたので、少しでもお力になれたらと思いまして……」


 そう答えたソフィアの言葉に、(うそ)はない。実際に手紙のやり取りをしてみると、その文面は本気で困っているような内容ばかりで。荒唐無稽(こうとうむけい)な話だと一蹴(いっしゅう)してしまうには、彼の地位や聞いていた噂からも総合して判断するに、違うのではないかと思ったのだ。

 とはいえ、最終的な決定を下した理由はもちろん、持ち掛けられたその契約金および報奨金の額の大きさではあったのだが。逆に、あの金額を提示されて断る伯爵家があるのであれば、むしろ一度会ってみたいとすら思えるほどの額だったことだけは間違いない。


「ありがとう。もしも君に断られてしまっていたら、私には()(すべ)がなくなってしまっていたからね。本当に助かるよ」

「あの……そんなにも、深刻な内容なのですか?」


 だが同時に、手紙では魔法の詳しい内容などは語られていなかった。ただ、今後の日常生活にも関わる重大な内容であるということと、酔っていたせいで魔女が魔法を解除するために設定するはずのキーワードを、完全に忘れてしまっていたということ。そして責任を感じた魔女が、魔法を解くことができる可能性のある人物を探し出し、それがソフィアだったということが書かれていたのだ。

 ある意味これだけでも、かなりの機密事項なのかもしれない。なにせ国の重要人物に関わる、大きな問題だというのだから。

 しかし、彼らの本気の度合いを伝えるために必要だと判断したからこそ、手紙にもそれが書かれていたのだろう。あるいは魔女の力によって、他の人間には見ることができないように工夫されていたのか。真相はソフィアには分からないが。


「そうだね。依頼を受けてここまで来てくれた君には、最初に話しておこうと思う」


 先ほどまでの優しい表情とは打って変わって、真剣な眼差しを向けてくるフェルナンの姿に。ソフィアは今一度、姿勢を正したのだった。



 まだ3話の時点で、ブックマーク登録者数が31件!?Σ(゜д゜;)

 しかも評価してくださった方も、すでに8名もいらっしゃる…!?

 PV数もリアクションも、3話掲載時では見たことのない数字なんですが…!!


 ここ数日、毎日本当に驚いてばかりですが、同時にとてもありがたくて…。本当に感謝しかありません…!!(>人<*)

 まだ始まったばかりですが、少しでも日々楽しめていただけていたら嬉しいです♪

 これからもよろしくお願いしますm(>_<*m))



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