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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
第一章 とっても簡単なお仕事です。
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3.ブランシェ伯爵領

 とはいえ、ただこの場に座っているだけではあまりにも暇すぎて。先ほどの続きとばかりに、今度は家族のことを思い出していた。到着してすぐに帰りたくなってしまっているというわけではないが、彼女の中にある思い出は領地と学園の二か所しか存在していないのだから、それも仕方のないことだろう。


(今頃はきっと、お庭の植物たちの夕方のお世話の準備に忙しい時間よね)


 本来貴族の屋敷の庭園といえば、季節ごとに色とりどりの花たちが咲き誇り、様々な人の目を楽しませるもの。その証拠に、先ほどソフィアが馬車に乗りながら通ってきたアマドゥール公爵邸の庭園も、それはそれは見事に花たちが美しさを競い合っていた。

 しかし残念ながら、ブランシェ伯爵家のカントリーハウスの庭園に関しては、人々を楽しませるための花たちのための場所ではなく。領民も含めてそこに住む全ての人々が飢えてしまわないようにと、様々な農作物たちが植えられている畑と化していた。しかもその土づくりから、毎日の雑草の処理に作物の世話、そして収穫までの一連の流れ全てを、ブランシェ伯爵家の人間も含め屋敷内にいる全員の手で行っているのだから、当然花などを植えている暇どころか愛でている暇もない。


(いくらブランシェ伯爵領が高地にあるとはいえ、この暑い時期は朝夕にしか作業できないもの。それに今のうちに、次の雨水を確保するための準備もしておかないといけないものね)


 王都での仕事がある人物以外の、ほぼ全ての貴族がカントリーハウスに戻っているこの時期。基本的に雨は少なく、降ったとしても夕方から明け方にかけてが多いため、本来であれば出かける予定などにあまり関係しない分、大変喜ばしいことではあるのだが。深刻な水不足という問題を抱えているブランシェ伯爵領にとって、むしろこの時期は地獄のような季節でもあった。


(日差しは問題ない代わりに、水が少なすぎるといくつもの農作物が一気に枯れてしまうのよね)


 昨年はこの時期に水が少なかった影響で、結局例年よりも多く水を購入するための資金が必要になってしまったのだ。なのでそういったことがないように、なるべく領地内の多くの場所に水を溜めるための容器を設置し、少ない雨を利用するようにはしているものの。やはりそれでも、限界はある。


(冬に降った雪を貯めておくにしても、まだまだ入れ物が足りないもの)


 ブランシェ伯爵領が経営難に陥って、すでに数十年の時が過ぎている。その間に数多くの知恵が生み出され、それらに助けられながらつつましく生活してきたおかげで、今も何とか領地や爵位を取り上げられずに済んではいるが。このまま借金が増え続けてしまえば、それもどうなるか分からなかったのだし。そもそもそんな土地を誰も管理したくないからこそ、ある意味で捨て置かれていた可能性だって否定できない。


(全ての領地にまんべんなく目をかけることなど、普通に考えて不可能だものね)


 借金の返済も少しずつできていて、かつ領民が飢えてしまうこともないのであれば、緊急性があるとは判断されにくいだろう。だからきっとわざとではないと、ブランシェ伯爵領の人々は言い続けてきた。


 だが。

 実情は分からないというのが、本当のところではある。


 つい嫌な方向に思考が飛んでいってしまいそうになって、ソフィアはそれを振り払うようにゆっくりと深呼吸した。今から依頼主に会うというのに、深刻な表情をしていてはよくないと思い至ったからだ。


(それに、跡継ぎのあの子が学園に入るのは来年。成人するまでには、まだ七年もあるわ。今回の件も含めて、きっとその頃には色々と改善されているはず)


 そう自分にも言い聞かせるように考えて、ソフィアはしっかりと前を向いて姿勢を正した。

 余談ではあるが、ソフィアには年の離れた弟がいる。デュロワ王国では家督(かとく)を継げるのは男児のみとされているので、必然的に伯爵位を継ぐのは七つ年下のその弟となるのだ。そしてだからこそ、ソフィアはまだ幼い弟にばかり負担をかけてしまわないようにと、自らの結婚を後回しにしてまで領地のために時間を費やしてきた。全ては、可愛い弟のため。

 来年学園に通うことを楽しみにしていた弟の姿を思い出しながら、頬が緩みそうになっていたソフィアだが。


「失礼いたします。お飲み物をお持ちいたしました」


 先ほどの男性使用人の登場に、急いで令嬢らしい笑みを顔に張り付けた。危うく不審がられるところだったと、内心冷や汗をかきながら。


「すまない。待たせてしまったね」


 ソフィアの目の前に紅茶のティーカップが置かれた瞬間、タイミングよく扉の向こうから現れた男性が、そう声をかけてくる。その姿を見て慌てて立ち上がろうとしたソフィアだが、彼はそれを片手で制すと。


「そのままで構わないよ。それと、私にも同じものを」


 ソフィアの向かいのソファーに腰を下ろして笑顔を向けてきたかと思えば、部屋の中にいた使用人にそう告げたのだった。



 んん!? えぇ!?

 ブックマーク24件に、評価してくださった方が5名も!?(゜д゜;)

 しかもリアクションも10件いただいているし、PV数は2話の時点で300越え!?

 あまりにも驚きすぎて、本当に口から「えぇ!?」という声が漏れてました(^^;)


 まだまだ始まったばかりなのに、本当に本当にありがとうございます!!(>ω<*)

 この嬉しさをさらなるモチベーションにして、今後もどんどん書き進めていきます!!p(>▽<*)q



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― 新着の感想 ―
すごいですね! でも、とりあえず題名好きです!文書も読みやすくてワクワクです!
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