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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
第二章 侯爵様は重症です。

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19.甘い視線

(……おかしいわ)


 以前よりも明らかにスキンシップ過多になっているフェルナンに、もしかしたら魔法の効力が強くなっているのではないかと心配したソフィアが、そのことを本人に伝えると。


「別段ユゲットからは、そういった話は聞いていないかな。むしろこの間なんて、順調そうだと言われたばかりだよ」


 などと返ってきて、首をかしげたのは記憶に新しい。

 だがソフィアが今疑問に思っているのは、そこではない。魔法をかけた魔女本人が問題視していないのであれば、とりあえずは様子見でいいのだろうと、そちらは一旦保留にしているのだが。だからこそ、目下(もっか)の一番の問題は別のところにあった。


「あの、フェルナン様……」

「ん? どうかしたのかな?」

「いえ、その……」


 どうかしたのかも何も、ソフィアのほうがこれはいったいどういうことなのかと、フェルナンに問いただしたい気分なのだ。なにせ今二人が向き合って座っている場所は、以前にも訪れたことのあるスイーツの店の、例の個室の中だったのだから。


「もしかして、他にも目当ての本があった? それならこのあと一度戻って、買い足してもいいんだよ?」

「ち、違います……! 気になった本は全て購入していただきましたから、これ以上はもう充分です……!」


 そう、今日の目的はそれだったはずなのだ。

 最近ではフェルナンの休日に、二人で馬車に乗って王立図書館へと足を運ぶことが多かったのだが。王立図書館の本は個人では持ち出し禁止になっているので、たまには王都の本屋をのぞいてみて、ほしい本があれば購入してこないかとフェルナンから提案されたソフィアは、喜んでその言葉に頷いた。そこまでは、よかったのだ。


「その……今日はそこまで、長時間の滞在ではなかったと思うのですが……」


 王立図書館へ行く場合には、以前と同じように先に昼食を外で済ませてから向かい、帰りにはどこかで軽くお茶をしてから帰路につく。それが毎回のお決まりのようになっていたのだが、今日はただの買い物でしかない。しかも店のすぐ近くに馬車を停められていたので、さほど距離を歩くこともなく。それどころか、ほしい本はだいぶ早くに見つけられたので、本屋に滞在していた時間すらそこまで長くはなかったはず。

 にもかかわらず、なぜか今、ソフィアはスイーツ店でフェルナンと向かい合って座っているのだ。特別疲れているわけでもないのに、こんなにもすぐに休憩を挟むことになるなどソフィアは考えてすらいなかった。


「あぁうん、そうだね。でもあそこは売り物を扱っている場所だから、購入する品物が決まっているのに長居する必要もないし、当然のことだと思うよ」

「いえ、あの……そういうことではなくて、ですね」

「うん?」


 だがフェルナンは、ソフィアが何に疑問を抱いているのかを理解していないらしい。もしくは、分かっていてあえて口にしようとはしていないのか。

 いずれにせよ、ソフィアがハッキリと言葉にしなければ伝わらないことだけは確かなので。


「その……。もしもフェルナン様が、毎回私に気を遣ってこうして色々な場所に連れてきてくださっているのであれば、大変申し訳なくて、ですね……」


 ソフィアが貧乏伯爵家の令嬢であることは、すでにフェルナンもよく知っているはずだ。その上で学園時代、気になっていながら王立図書館にすら足を運べていなかったソフィアのことを思って、毎回こうして様々な場所に連れて行ってくれているのだとすれば。身の丈にも合わないほど豪華すぎて、それはそれは申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまうソフィアだったのだが。


「う~ん。確かに、ソフィアに王都の色々な場所を知ってもらいたいと思う気持ちはあるけれど、それはどちらかというと建前(たてまえ)のようなものでね」

「建前、ですか?」


 返ってきたフェルナンの言葉に、ソフィアはどういうことなのかと首をかしげた。

 そんな彼女の様子をどこか楽しそうに見つめているフェルナンは、さらにこう続ける。


「そう、建前。本当は、私が少しでもソフィアと一緒にいたいだけなんだ。だから、あまり気にしなくていいよ。これはただの、私の我が(まま)だからね」

「っ……!?」


 それは普段とは違い、ささやきなどという声量ではなく。しっかりハッキリ声に出した上で届いた、ソフィアへの甘い言葉。心なしかその視線も、普段よりも甘くとろけているような気がして。


(ち、違うわっ……! これは、魔女様の魔法の効力だからっ……!)


 一瞬勘違いしそうになってしまった思考を、ソフィアは自分にそう言い聞かせることで必死に正そうとする。そもそもこうして二人で出かけていること自体、魔女の魔法のせいなのだから、と。


(い、今までは耳元でささやかれていたから、その表情を見たことがなかっただけだもの……! きっと今までも、同じようなお顔をされていたのよ……!)


 だからずっとこの甘い視線を知らないままだったのだと、無理やり自分を納得させたソフィアは、まだ気付いていなかった。最近フェルナンの休みの回数が増えて、そのたびにどこかに二人で出かけるようになっているのだということにも、世間一般では男女が二人で出かけることは、デートだと認識されているのだということにも。

 そして実は、アマドゥール公爵邸で働くソフィア付きの侍女たちが主のためにと、以前にも増してソフィアを磨き上げることに情熱を燃やしていることにも。彼女はまだ、何一つ気付いてはいないのだった。



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