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11.知識の宝庫

「そうだけれど……。本当に? 本当に、もう眠らなくて大丈夫なのかい?」

「はい、もちろんです」


 すぐには信じようとしないフェルナンと、何度かそんな問答(もんどう)を繰り返して。けれどソフィアが完全に覚醒しているのだとようやく納得したのか、最後には小さくため息をつきながら。


「そうか。君がそこまで言うのなら、私は信じるよ」


 なぜか少しだけ困ったような笑顔を向けつつ、フェルナンが先に折れたのだった。

 その様子を見て、このままの勢いで腕の中からも解放してもらおうとソフィアが口を開きかけたのだが、それよりも先に。


「とはいえ今後は当面の間、部屋に本を持ち込むのは禁止にさせてもらうからね?」

「え……」


 フェルナンに宣言されてしまった言葉に、ソフィアの中からそんな考えは一気に消え失せてしまう。

 まるで絶望に叩き落されたかのような表情のソフィアに、フェルナンは再び小さくため息をついて。けれどどこか呆れたような表情をして、さらに言葉を続けた。


「図書室の中で読む分には、今まで通り自由にしてくれていい。ただ、どこでも読書していい権利を君に与えておくのは、危険だと判断したんだ。事実、こうして睡眠時間を削ってしまっていたわけだからね」

「うっ……」


 読書自体が禁止されてしまったわけではないということに安堵したソフィアだったが、その次の瞬間には痛いところを突かれてしまい、思わずその視線を逸らしてしまう。彼女の中にも睡眠時間を削っている自覚はあったのだが、それを問題だと捉えられないところがソフィアの残念な部分でもある。


「ただ、わざわざブランシェ伯爵領から出てきてくれた君に、制約ばかりを与えるのは忍びない。それにこのまま毎日読み続けていけば、我が家の蔵書だけでは足りなくなるんじゃないかな?」

「そう、でしょうか?」


 アマドゥール公爵邸の蔵書量は、すぐに読み切れるものではないだろうとソフィアは首をひねるのだが。そんな彼女にフェルナンは優しい笑顔を向けると、こう告げたのだった。


「いつか終わりはくるからね。ただそんなにも本が好きならば、次の私の休みの日にでも王立図書館に行ってみないかい?」

「え!? 王立図書館にですか!?」

「あぁ。せっかく王都にいるのだから、アマドゥール公爵邸以外も知ってほしいし、堪能してほしいんだ」

「ぜひ! ぜひ行ってみたいです!」


 本狂いと呼んでも過言ではないソフィアだが、フェルナンの依頼で領地から出てきているのも事実。そのことを申し訳なく思ったのか、それとも以前から計画していたのか。いずれにせよフェルナンから出された提案に、キラキラとした視線を向けながら二つ返事で頷くソフィアの表情からは、先ほどまでの若干気まずそうな雰囲気は欠片も見当たらなかった。

 だが、それもそうだろう。王立図書館といえばデュロワ王国で最も蔵書量が多いと言われており、様々な専門書も数多く取り扱っていることで有名だった。しかしその反面、資料として非常に価値が高いものも多く、そのため貸し出しなどは一切行っていない。つまり王立図書館へ出向いた者だけが触れることのできる、まさに知識の宝庫と呼べる場所なのだ。


「ウラリーに聞いたよ。ソフィアは今、植物に関する本をメインに読み進めているのだと」

「はい! 見たことも聞いたこともない植物を図鑑で目にすることも多いので、あれもこれもと調べたくなってしまうのです」


 そもそも貧しい領地のためにソフィアができることは、一つでも多く使える知識を持ち帰ることと、それを実践し成功させること。そのためには、数多くの本を読み漁るしか近道はない。そのことを、ソフィアは学園に通っていた四年の間に、嫌というほど学んだのだった。


「それなら、なおさら王立図書館の蔵書を一度見てみるといいよ。広く深く調べるのに、あそこほど適している場所はないからね」

「はい! 楽しみです!」


 フェルナンの言葉に、はじけるような笑顔を向けるソフィア。彼女の頭の中は王立図書館のことでいっぱいで、図書室から本を持ち出すことを禁止されてしまった事実など、完全にどうでもよくなってしまっていた。むしろ早くフェルナンの休みの日にならないかと、非常にご機嫌だったのだが。


「私も、楽しみにしているよ」


 そう言いながら、とろけるような笑顔を向けるフェルナンや、二人を見守るアマドゥール公爵邸の使用人たちとは違い。未婚の男女が二人で出かけるということは、実質デートであるという事実に、ソフィアだけが気付いていないのだった。



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