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10.目覚め

 そうしてソフィアが次に目覚めた時に、最初に目に入ってきたのは。


(――……フェルナン様?)


 まだ寝ぼけた頭で、その(うるわ)しい顔を見上げる。こうして下から見ているからこそよく分かる、すっきりとした(あご)のライン。そのさらに先から、神秘的なアメシストのような瞳がゆっくりとこちらに向けられた。


「あぁ、ソフィア。目が覚めたんだね。おはよう」

「……おはよう、ございます?」


 柔らかく微笑みながらかけられた言葉に、思わずそう返してしまったソフィアだったが。まだ完全には覚醒しきっていない頭で、必死に今のこの状況を分析しようとする。


(え、っと……。どうして、フェルナン様がここに……? それに、なんだかお顔が近くないかしら……?)


 頭の中は疑問でいっぱいだったのだが、そこで彼女はふと気付く。普段使っているベッドの感触とはだいぶ違う、と。

 ここでようやく、眠りに落ちる前に自分が何をしていたのかを思い出すために、記憶をたどって。そうして直前のフェルナンとの会話を思い出した瞬間、一気に目が覚めたのだった。


「も、申し訳ありません……! 私、そのっ……!」


 まさか本当に、フェルナンの腕の中で眠ってしまうことになるとは思ってもみなかったので、焦りからか体温が急激に下がってしまったような錯覚に(おちい)る。だが、急いでそこから抜け出そうと身じろぎしたソフィアの体は。


「まだ時間はあるから、もう少し眠っていてもいいんだよ?」


 なぜかフェルナン本人に、先ほどまでよりも強く抱きしめられてしまったせいで、動かすことも叶わなくなってしまった。しかもそのせいで、顔の距離まで一段と近くなる。

 これにソフィアは、今度は違う焦りを覚えて。下がったように感じていた体温が、今度は急激に上がったかのように錯覚してしまう。至近距離でのぞき込むように見つめてくるアメシストの瞳が、それをより助長(じょちょう)させているような気がした。


「い、いえっ……! そういうわけには……!」


 そこから逃れるため、反射的にその体を押し返そうとしてフェルナンの胸に手を置いてみても、全くもってびくともしない。

 それどころか。


「ここ数日の君の睡眠時間の不足に比べたら、まだほんの少ししか眠れていないんじゃないかな?」

「っ……!」


 さらに顔を近付けてきたフェルナンが、ソフィアの顔にかかるスノーホワイトの髪を優しく払って、そっとその目元を親指でなぞる。

 確かに睡眠不足になると、目の下が青黒くなるということを知識としては知っているが、まさかこの状況下で触れられるとは思っていなかったソフィアは、フェルナンの行動に驚いて体を硬直(こうちょく)させてしまった。それもこれもフェルナンの距離感が近すぎるからだと、彼女は心の中で一人、恥ずかしさから頭を抱えたい衝動に駆られていたのだが。


「ほら、ソフィア」


 そのことに微塵(みじん)も気付いていない様子で、フェルナンにささやくように甘く名前を呼ばれた瞬間。ソフィアは、ようやく気付いた。そのままエメラルドグリーンの瞳を大きく見開いて、その顔を凝視しながら、心の中でこう叫ぶ。


(これっ……! 魔女様の魔法が発動しているのでは……!?)


 まさか寝起きでそんな状況下に放り込まれる日が来るなどとは考えたこともなかったので、焦りから顔を青くしたり赤くしたりと忙しかったソフィアだが、理由さえ分かってしまえばなんてことはない。これもお仕事の一つだと割り切ればいいのだと、ようやく自分の中での答えにたどり着いて、冷静さが戻ってくる。

 そう、つまり。今は決して焦るような場面ではなく、むしろいつもと同じように対処すればいいのだ、と。


「いいえ、フェルナン様。だいぶ頭もすっきりしましたから、もう大丈夫です」


 だからこそ普段通り冷静に、ソフィアはそう返すことができた。

 とはいえ元々の性格が疑り深いのか、それとも心配性なのか。まだ納得していない様子のフェルナンが、眉根を寄せながら問いかけてくる。


「本当に? ソフィアが眠っていた時間は、そんなに長くはないんだよ?」

「睡眠に大切なのは、量より質ですから」


 そんなフェルナンに対して笑顔でそう答えられるくらいには、普段通りに振舞うことができるようになったソフィアだが。しかし彼女の体は、相変わらずフェルナンの腕の中に閉じ込められたままだった。



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