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7.本狂い

 ソフィア・ブランシェという人物は、傍目から見ればあまりにも細くか弱い印象だろう。だが、実際の彼女は夜通し本を読んでいたとは思えないほど、朝から元気に活動できるガッツと体力を人並み以上に持っている。つまり。


「君と一緒にいられないのは寂しいけれど、今日も早く帰って来られるよう頑張るよ」

「はい。行ってらっしゃいませ、フェルナン様」

「あぁ。行ってくるよ、ソフィア」


 なぜか徹夜後だというのに、普段通りにフェルナンと朝食を共にし、見送りまで完璧にこなしてみせることができるのだ。しかもこの間、フェルナンに寝不足を疑われることも一切ないまま。

 そんなソフィアの様子に、ウラリーは内心違う意味で感心していたのだが、こんなものはまだ序の口で。本好きを通り越して、もはや本狂いとも呼べるようなソフィアの異様なまでの読書欲の真髄(しんずい)を彼女が発揮するのは、実はここからだった。


「本日はどうなさいますか? 一度お休みになられますか?」

「いいえ。今日もこれから図書室で、昨日の続きを読むつもりよ」


 仮眠ぐらいは取りたいだろうとウラリーが問いかけた質問に、当然のことのように笑顔で応えるソフィア。その表情には一点の曇りもなく、つい先ほどまでずっと本を読んでいたとは思えない。現にウラリーは一瞬、もしかしたら朝早くに目が覚めてしまっただけだったのではないかと考えてしまったほど、ソフィアに疲労の色は欠片も見当たらず。けれど最初に部屋を訪れた時点で、残り一冊以外の全ての本を読み終えてしまったと聞いていたウラリーは、朝の短い時間だけでそんなことは不可能だと思い直す。

 だが、本人が図書室で本を読むと言っている以上、それに従わないわけにはいかないので。内心、睡眠の時間は本当に足りているのだろうかと心配しつつも。結局昨日と同じように、ウラリーは図書室へと向かうしかなかった。


 そうしてソフィアは本当に一睡もしないまま、ただひたすらに本を読み続け。前日に引き続き、昼食の時間をすっかり忘れていたところにウラリーから声をかけられたことで、なんとか食事だけはまともにとっているという状態だった。

 もはやここまで来ると、半分狂気の沙汰(さた)ではあるが。実はこの生活は、ソフィアにとっては普通のことでもあった。なにしろ彼女の実家は、貧乏伯爵家。つまり食事を一食抜く程度のことは、悲しいかな、あまり重要視されていなかったのだ。

 むしろ逆に「今日は本を読みたいから食事はいらない」とソフィアが言い出した日には、他の家族の食事量が少しだけ増えるというような状況。それを全員が受け入れてしまっていたため、そんなことが日常化してしまったのだ。そしてだからこそ、ここでもソフィアは同じような行動を取ってしまう。

 ただ残念ながら、ここはブランシェ伯爵邸ではない。国内でも数少ない公爵家の、さらにその中でも重要な役割の一つを(にな)う家柄の、アマドゥール公爵家の屋敷内。ソフィアにとっての日常だからといって、それが許されるかどうかは完全に別の話だった。


 当然、ウラリーは思う。このままではいつか体調を崩してしまう、と。

 そもそも、一睡もせず本を読み続けるというその異様さを知っているのは、今現在この屋敷の中では彼女だけである。となれば、どうにかしてしっかりと睡眠もとらせるべきだと思うのが、普通の感覚だろう。実際、食事すら抜いてしまいそうな様子にウラリーは焦りを覚えて、なんとか本の世界からソフィアを呼び戻しては食堂へと連れ出しているのだから。

 そう、連れ出している。もはやその言葉が最も正しいのではないかと錯覚してしまうほどに、ソフィアの一日はそのほとんどが図書室での読書の時間にあてられてしまっていた。少なくともこの二日間に関しては、そう言い切ってしまって差し支えがないほどに。

 そしてだからこそ、ウラリーはこの時点で気が付いたのだ。放っておけば彼女は本当に、必要最低限の食事や睡眠しかとらなくなってしまう、と。

 主であるフェルナンから聞いていた人となりも加味(かみ)した上で、そう結論づけたものではあったが。事実、それは間違ってはいなかった。このままソフィアの好きにさせてしまえば、睡眠だけでなく食事までおろそかになり、日中は完全に図書室に入り浸るだけでなく、フェルナンに会う時間以外は全て読書にあててしまうだろう。ソフィア・ブランシェというのは、そういう人物なのだ。


 だからこそ、夢中で文字を追いながら次々にページをめくっていくソフィアの姿を眺めつつ、ウラリーは決意したのだった。今夜もソフィアが睡眠をとらず、かつこの状況が明日も続くようであれば、すぐに主たるフェルナンへ報告することにしよう、と。

 この不摂生(ふせっせい)が、もし今日たまたまであったとするならば。一日くらいは仕方がないと見逃すつもりで、その横顔を見つめていたのだが。そんなウラリーの淡い期待は、翌朝には完全に裏切られるのだということを。この時の彼女はまだ、知らなかった。



 しばらく後書きは静かにしていますとお伝えしていましたが、すみません!これだけは言わせてください!


 ブックマーク登録数が、50件に。評価者数が、15名に。リアクションが、100件に。それぞれ、いつの間にか到達しておりました!

 登録してくださった54名の方、評価してくださった15名の方、そしてリアクションしてくださった方に読んでくださっている方。皆様、本当に本当にありがとうございます!m(>_<*m))



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