偵察クエスト開始
レーベルとロマニエルドを結ぶ街道。
街道でのゴブリン目撃情報はとても重要、かつ迅速な対処が求められる事案である。
ゴブリンの痕跡を見つけ、追跡、巣穴の発見までがクエストとなる。
そこから先の殲滅作業は専門の業者である小鬼駆除業者に依頼する事になる。
「この辺りですね。目撃情報があったのは…」
現場までの道中、リゼルの現地採取によって予定より遅れてしまってはいたが、無事に到着した。
「予定より遅れてしまった。
すまない。私の採取に付き合わせたばっかりに。」
「いえ。お気になさらず。とても有意義でしたので。」
「勉強になったです。」
すまなそうにしているリゼルを気遣うわけではなく、本心から兄妹はリゼルに応えた。
しかし、リゼルはふたりに気を使わせたと思い、有り難いと思いつつも、この採取癖を改めなければならない、と考えていた。
「それに僕らは回復薬なんて高価なもの買えないので、現地採取で作ってもらえれば有り難いです。」
ルークが嬉しそうに話すと、リゼルは心底驚いた。
回復薬、というより基本的な調合薬はそんなに高価ではない。
昔は高価だったが、今は添加技術の普及と作業効率化が進み、かなり安価になっている。
よくよく話を聞いてみると、どうやら流通の関係で、レーベルでは相場より割高になっている、という話で、リゼルはなるほど、と納得した。
しかし、それでも高価というほどではない。
実際のところ、ふたりは食べていくので精一杯の報酬しかもらえていなかったのだ。
これはギルド側の悪意ではなく、シンプルに依頼の少なさと、報酬の少ない比較的簡単とされるクエストしかこなせないふたりの実力によるところにあった。
「さて、この辺りですね。目撃情報があった地点は。」
「うん。では、探索を開始しよう。」
「はい。です!」
3人がゴブリンの痕跡を探し始めようとしたその時
「うわあぁーー!助けてーー!」
刹那、3人は悲鳴の方向へ目を向ける。
いち早く反応したのはルーク。
リゼルが行商人らしき人がゴブリンに襲われそうになっているのを視認した頃には、すでに行商人とゴブリンの間に割って入っていた。
驚くべきはその瞬発力である。
視認できるとはいえ、目算で30メートルは離れているであろう場所へ一気に移動してみせた。
「ルシア!!霧のカーテンだ!」
「はいです!!」
ゴブリンを牽制しているルークがルシアに大声で合図をする。
ルシアが魔法を発動すると、辺りは霧に包まれた。
その一瞬のスキを突いて、ルークは行商人をリゼル、ルシアのもとに連れてくることに成功した。
すぐに霧は晴れ、ゴブリンと対峙する。
ゴブリンの数が一匹から三匹に増えていた。
偵察であればこの時点でゴブリン達は引く、と考えていたリゼルはこの状況に少し嫌な気配を感じていた。
「行商人さんの保護を最優先。
攻撃はとどまるように。」
リゼルはルークへ指示する。
しかし、この緊張状態でそんな冷静な判断の出来る前衛はほとんどいない。
ここで冷静でいられる前衛がいるとすれば、モンスターと余程の実力差があるか、保護対象を保護する気がないか、のどちらかだろう。
リゼルは行商人と共に兄妹の後ろへ引く。
背後からの強襲も想定して余り離れすぎない位置に待機した。
張り詰めた緊張感、音も無く、まるで絵画のように世界が一切の動きを止めていた。
口火を切ったのはゴブリンの方だった。
3匹のうち、2匹がルークへと襲いかかった。
ルークは素早く2匹の外側に飛ぶように避け、しかも避け際に短剣で斬りつけた。
短剣の一撃は薄い。
急所まで届かず、討伐出来る相手は限られている。
しかし、ルークの短剣には毒が塗ってあった。
基本的にパーティー作戦で毒は使われない。
強力すぎるからである。
「味方誤爆」の危険性があるパーティー作戦ではご法度に近い戦法となっている。
しかし、現状を憂いたルークの願いにより、今回使用している。
その毒付着短剣がゴブリンの腕を切り裂いた。
切り裂いた傷は浅く、ゴブリンにとって、戦闘はおろか、日常生活ですら問題にならないくらいの傷だったが、その傷口は、瞬時に赤く腫れ上がり、燃えるような熱と、まるで、傷口をハサミで掻き回されているかのような痛みが襲いかかってきた。
「げギャギャギャギャあぁぁぁ!!!」
のたうち回るゴブリンをみたリゼルは曇り青ざめた。
「まずい……はぐれだ………」




