出会い
ウェアウルフ
亜人系モンスターで狼の鋭いキバと鋭い爪を持ち、知能も中々に高い強敵だ。
主に群れで生息し、狩りをする。
単体ということは偵察役だろう。
偵察役さえ追い払えれば、引いてくれるはずだ。
リゼルはそう考え、自分の持つ装備の中で、殺傷能力は高くないが、ダメージと状態異常を与えやすい「強苦剤」で視覚と嗅覚を奪う作戦にでた。
「液体なら広範囲に振りまいて、少しでも鼻か、目に入れば効力を発揮してくれる。
相手が攻撃のために近づいた所を狙う!」
リゼルは道具袋に手を伸ばす。
目はそらせない。
手触りで判別する為に形の違う容器にそれぞれ入れてある。
「よしっ!これだ!」
目的の容器を手に取り、道具袋から取り出そうとしたが
なんと、リゼルはその動きだけでバランスをくずしてしまった。
手に取った容器は落とし、さらに右膝が崩れて地面についてしまった。
そして何より、ウェアウルフから目をそらしてしまったのだ。
「しまっ……」
急ぎ視線を元に戻すも
鋭い鉤爪が視界いっぱいに広がっていた。
「たぁー!」
瞬間、リゼルの視界から鉤爪が取り払われる!
襲い来るウェアウルフが真横からの突撃で押しのけられた。
「大丈夫ですか?」
「あ…ああ。大丈夫だ。」
年の頃14、15だろうか。まだ幼さの残る少年がウェアウルフとの間に割って入った。
「ルシア!」
「はいっ!兄様」
ルシアと呼ばれた、こちらも幼い少女が、杖の先の透き通った青色の宝玉から、拳大の水の様な玉をウェアウルフに向かって放った。
「水鉄砲か……」
リゼルの元パーティー「赤い牙」所属の魔法使いベネッサは炎系魔法使いだったので水系魔法使いの魔法はそんなに見たことはない。
以前、他のパーティーとの合同クエストで水系魔法使いの使う水鉄砲は見たことがあった。
水鉄砲は見事にウェアウルフの顔に当たり、一瞬だが視界を奪うことに成功した。
そのスキを見逃さず、少年はウェアウルフの首元に短剣を突き立て、喉元を経由してぐるりと円を描いた。
「ギャガがが!!……ガ!……」
ウェアウルフは濁流のような濁った断末魔をあげ、短剣が喉を過ぎるとその声も聞こえなくなった。
「兄様!」
「やったぞ!ルシア!」
二人の歓喜の声と喜びの笑顔がまるで辺りを照らすかのように響き渡った。
「ケガはないですか?商人さん。」
リゼルは、どうやら私を商人と思っているらしい。まぁ、冒険者登録をしていない野良の身なので間違っているとも言い切れないな、と思い、説明の手間などを考え、あえて訂正しないことに決めた。
「ああ、大丈夫だ。助かったよ。ありがとう。」
「ところで君達はレーベルの冒険者かい?見たところ兄妹のようだが…」
「はい。こちらは妹のルシア。水系魔法使いです。」
兄に紹介されたルシアはペコリと頭を下げる。
「そして僕がルシアの兄で、この「蒼き翼」のリーダー、短剣使いのルークです。」
ルークは誇らしげにリゼルに語った。
「それで、商人さんはどちらへ向かわれるのですか?
もし、レーベルへ向かわれるのなら僕達もレーベルの冒険者ギルドへの報告があるのでご一緒しませんか?」
「それは有り難い。ぜひ同行をお願いするよ。」
「はいっ!
それでは少しお待ち下さい。
すぐに用を済ませてしまいますので。」
「用?
ああ……「剥ぎ取り」かい。
それなら私も覚えがある。
手伝わせてくれ。」
冒険者はモンスターを討伐した後に可能であれば「剥ぎ取り」をする。
モンスターからの剥ぎ取りで得られる素材は武器防具の材料だけでなく、様々な薬や、なんなら食材となる物もあった。
それを売ってお金にしたり、新たな装備の材料にしたり、ソレ自体がクエストの依頼だったりと冒険者にとって剥ぎ取りは大事な作業となっていた。
「それは有り難いです。ぜひお願いします。」
ルークはとても嬉しそうにリゼルの申し出を了承すると、ルシアを呼び、3人でウェアウルフの剥ぎ取りを手早く済ませた。
「さてと。
それじゃ、出発しましょう。」
「ああ。行こうか。」
「道中の安全は私達にお任せくださいなのです。」
そうして3人は他愛のない話をしながらレーベルへと向かっていった。
これが後に史上初となるSSSランクパーティーになる「蒼き翼」のパーティーメンバーの出会いである。




