新天地へ
「赤い牙」を解雇処分になったリゼルは、冒険者ギルドに来ていた。
加入させてもらえそうなパーティーがいないか相談するためである。
「ウ~ン、「調合師」の募集は無いですねぇ……」
冒険者ギルド受付の女性は困った様な笑顔でそう答えた。
それならばと、リゼルは別の条件で探してもらおうと考えた。
「なら、職業不問の募集はどうですか?
ランクは問いません。報酬の分配も最低限で良いので。」
「職業不問も無いです。
必ずウチのギルドでは、募集の際は職業や役割は指定してもらっていますので。」
「そう……ですか。」
リゼルはガックリと肩を落とした。
この街のギルドでは、ギルドを介さないパーティーメンバーの勧誘、募集は、トラブル防止の面から禁止されている。
なのでリゼルが冒険者として活動するにはギルドの募集に頼るしかない。
ソロで活動する方法もあるが、リゼルの壊滅的な運動能力では不可能だろう事はリゼル自身が1番よく分かっていた。
「申し上げにくいのですが……
リゼルさんがこの街で冒険者をするのは難しいですね……」
「やっと……やっとSランクに成れたのに……ここまでか………」
Sランクになる事で様々な恩恵が受けられる。
中でも、リゼルは「未知の領域の調査および採取」の許可が出たり、クエストとして請け負うことができたりといった事の為にSランクを目指していた。
もちろん他のメンバーは、名誉だったり、報酬だったりと別の理由でランクアップを目指していた。
多くの人が欲するであろう、名誉や財産といったものにはあまり興味がなく、ただ、未知なる素材や新たな調合薬の研究、そして「伝説の秘薬」を作り出すという大きな夢の為にリゼルは冒険者を選んでいる。
それ故、冒険者以外の職に就くことなど考えもしなかった。
「別の街に行くしか無いか……」
ここ「ロマニエルド」はこの地域で1番大きく栄えている街である。
それ故、様々な地域の様々なクエストが冒険者ギルドに依頼され、人もそれだけ集まり、パーティーも組みやすく、自分の望むクエストも見つけやすいのである。
パーティーについても、「赤い牙」の様に固定のメンバーで常にクエストをこなしていくパーティーもあれば、クエスト毎にそのクエストを受けたい冒険者がパーティーを募集し、クエスト後は解散する、というその場限りのパーティーも多かった。
冒険者が集まり、パーティー形態も多種有り、様々なクエストのある大規模な街なら冒険者として活動できる、と予想してリゼルはこの街を拠点としていた。
リゼルの予想は概ね正しかったのだが、調合師がコレほどまでに需要がないとは思っていなかった。
この街に来てすぐに固定パーティーを組めたことは実は奇跡に近いことだったとはリゼルは夢にも思わなかったのである。
「どの街に拠点を移そうか……
そうだ、あの街へ行こう。
変に規模の大きな街へ行っても同じ結果になりそうだしな。」
リゼルは以前クエストで訪れた「レーベル」という山間の小さな街を思い出していた。
四方を山で囲まれている、いわゆる盆地にある街なのだが、中々に珍しい植物や鉱物何かを採取できた思い出があった。
しかし、あまり賑わいのない街、規模の小さな街の冒険者パーティーはほぼほぼ固定パーティーで、新規の冒険者が活動しやすい環境ではない。
そんなにクエスト数も多くなく、小さな街は冒険者だけでは食べていけない、なんてことも大いにある事だ。
それでも人手不足なのは間違いなく、空きがあることに賭けて、リゼルは拠点を「レーベル」に移すことにした。