解雇処分
「リゼル、お前は解雇処分だ。」
「えっ?!
どういう事だ?」
「どうもこうも、あなたはもう用済み。いらないって言っているのよ。」
「忍。」
突然の言葉にリゼルが困惑していると、体が大きく、いかにも戦士といった男が続けた。
「お前はこのSランクパーティーである「赤い牙」にはもう要らないんだよ。たいした戦力にもなって無いのが分からんわけでもないだろう。」
この男がリゼルの所属していたパーティー「赤い牙」のリーダー「ウォルフ」。
職業は長剣使い。
重く、長く、鋭い長剣をまるで手足のように扱える職業である。
戦闘ではその攻撃力を生かし、前衛として大きな火力となる。
「それにあなた、クエスト途中で何度も採取をしたり、ダラダラと調合したりしてウンザリなのよ!
こっちはサッサとクエストを終わらせて、街に戻りたいってのに。」
ゴミを見るかのような目をしながらリゼルに冷たい言葉を投げつけた。
この女の名は「ベネッサ」。
「赤い牙」所属の炎系魔法使い。
炎系は攻撃的な魔法が多く、後衛ながらメインのアタッカーになる事も多い。
「忍!」
黒装束に身を包み、異様な出で立ちの男。
名を「カゲロウ」という。
「赤い牙」所属の忍者。
忍者とは東方の小さな島国でのみ発現するといわれている職業で、素早い身のこなしと多様な武器を扱うスキルがあることは分かっているが、なぜ、東方の島国でのみ発現するするのかなど、未だ謎が多い職業である。
「それは……確かに私用もあったが、大半がパーティーの皆を支援する為の採取と調合で……」
「くどい!お前のくだらない言い訳なんぞを聞いてる暇はないんだよ!」
どうでもいい、聞く耳を持たない、といった表情でリゼルの話にザクッとウォルフが割って入った。
「考えてもみなさいよ。
あなた「調合師」なのよ?
冒険者のパーティー、ましてや私たち「赤い牙」に居れるわけないでしょ?」
ベネッサが心無い言葉をリゼルにぶつける。
そこへ追い打ちをかけるようにウォルフが告げた。
「お前をパーティーに入れたのは「アイテム代の節約と荷物持ち要員」だ。
駆け出しの下位ランクの頃は金がなかったからな。」
「囮としても考えていたんだが、お前の使えなさはまさにSランクだな。
まさか囮もできないくらい動けないとはな。予想外だったよ。」
リゼルの運動神経は壊滅的だった。
走ることはもちろん、登り降り、跳躍、投擲にいたるまで一般人をはるかに下回る能力しか持ち合わせていなかった。
「走れば転ぶ……アイテムを投げれば明後日の方向へ……それでよく冒険者やろうと思ったわね?逆に感心するわ。」
ベネッサからも口撃が飛ぶ。
「忍!」
「とにかく、お前はもう用済みなんだよ。
お前に変わって新しいメンバーも決めてある。
入ってきなー!」
ウォルフは隣の部屋にそう呼びかけた。
すると、部屋のドアがガチャリと音を立てて開いた。
「どうも。新しく「赤い牙」のメンバーになりました「ドランス」と申します。
よろしく、先輩。
ゲェースゲスゲスゲス。」
その下品な笑い声と、見下し、侮蔑するような目にリゼルは激しい嫌悪と怒りを覚えた。
なんなんだコイツは!
「このドランスはレアスキル「拡張アイテムボックス」持ちの「弓使い」だ。
荷物持ちと攻撃参加にサポートも出来る有能な奴だよ。
誰かさんとは大違いだな。
フハハハ!!」
「まぁ、長い事パーティーを組んでたよしみだ。最後に有り難い忠告してやるよ。
伝説の秘薬なんてくだらないおとぎ話信じてないで、アイテム屋にでも就職するんだな。
そんなおとぎ話追いかけてると、お前の両親の様にくたばっちまうぞ。
フハハハハハハハハハ!!」
自分だけでなく両親、引いては一族まで侮辱されたリゼルは頭から全ての思考が飛び、我を失いウォルフに飛びかかった。
ウォルフは小さな虫を相手にするかの様に軽く払い除けた。
リゼルの体は大きく吹っ飛び、部屋の壁に強く打ち付けられた。
リゼルは背中への強い痛みと共に、息が出来ず、悶え苦しんでいた。
「もういいだろ……しつこいんだよ、失せろ!」
リゼルはヨロヨロと立ち上がり、フラフラと部屋から出ていった。
「フハハハ!」
「ホホホホホホ!」
「忍!」
「ゲーェスゲスゲスゲスゲス!」
部屋から漏れる笑い声にリゼルは深く傷ついた。
リゼルは自分の手を見つめ、その力の無さに悲しみと諦めを感じ、希望なく部屋を後にした。