ルークサイド
ルークは興奮状態にあった。
我を忘れる程ではない。
戦闘状態と言ったほうが良いのだろう、モンスターとの戦闘、決闘、私闘、それこそ忙しい厨房でもこの状態になる。
周りが見えていないわけではない。
実際、ホブゴブリン登場は認知したし、ルシアとリゼル様が対応した事も分かっていた。
油断があったわけでもない。
ゴブリンも単体なら問題無い相手だし、複数いるのも毒付着短剣があれば対応出来ると思っていた。
ただ…ここまで連携を取るとは思っていなかった。
パーティー戦、仲間との連携がとてつもない個体差を、種族差を、大きく縮め、凌駕することは、身にしみている。
しかし、仲間との連携は人間だけのものだと思っていた。
モンスターであるゴブリンがこんなにも見事な連携を組むとは聞いたことは無い。
「はぐれ」だからなのか。
リゼル様の言う通り、「はぐれ」は特別な存在で、別種の生き物として扱わなければならなかったな、とルークは少し後悔した。
それでもルークは「はぐれ」を別種の生き物としていても、まるで人間の様に連携して戦う、という考えには至らなかっただろうな、と落ちかけた自らの左腕を見て思った。
後方からズシンっという何かが倒れる音がしたかと思うと、ルークに襲いかかろうとしていたゴブリン達が少し驚いた様な表情をして、攻撃を中止した。
ゴブリン達はルークと少しだけ距離をとる。
ルシアの叫び声が聞こえた気がした。ルシアの声がひどく遠くから聞こえるように感じていた。ルークの認識していた位置よりも遥かに遠くから。認識よりも遠くの位置に居るのか、それとも自分に異変があるからなのか。
実際には興奮と集中による感覚認識変化なのだが、ルークにはそんな自分の状態の変化やゴブリン達の行動の意味を考え読み取る余裕と時間はなかった。
ゴブリン達が少し戸惑っている。
その隙に取るべき行動は思い付いていた。
「役に立たなくなった左腕を切り落とし、身軽になる。」
動きの邪魔でしかない左腕は切り落とす。それが最善の行動だ。
こんな荷物をぶら下げながら戦えるほどゴブリン達は甘くない。
戦うにせよ、逃げるにせよ、左腕はもういらない。使い物にならない。
「まさか毒付着短剣をこんな形で味わう事になるとは…。」
ほんの一瞬、ルークは躊躇した。
自らの左腕を切り落とす、普通の人なら分かっていても、そう簡単に行動に移せることではない。しかし、ルークはほんの一瞬でも躊躇った事に悲しみと落胆を感じていた。
まだ自分は冒険者になりきれていなかった。ただの一般人ではないか…と
「今までありがとう」
ルークはそう小さく呟く。
この躊躇いを乗り越えて真の冒険者に成ることを胸に誓って。
バシャッ!!
ルークは突然、水の様な液体に包まれた。
前方からではない。後方からである。
ルークは反射的に後方に振り向く。
「ルシア?確かにこれはルシアの水鉄砲…?
味方誤爆…?
それにしては攻撃性も無いし、実際ダメージも無い…?」
そこでルークは気づく。まずい、ゴブリン達から目を離してしまった、と。
すぐさま前方に振り向き直し、構えを取る。
ゴブリン達はまだ襲いかかってきていない。未だ戸惑っているようだ。
そこで少し冷静になったルークが違和感を覚えた。
違和感の無い事に違和感を覚えたのだ。
いつものように構えることが出来たことに対する違和感。
その違和感の正体を確認する為、視線を左腕に落とす。
そこには見慣れた左腕があった。
いつも傍らにいて、自在に動き、生まれてから共に戦ってきた、今まさに決別を決意した左腕が、そこにはあった。




