調合師リゼルの実力
「兄………様……?」
ルシアには絶望に見えた。
ルークの身体から腕が離れてしまったように見えた。
怪我ではない。
再起不能である、と。
「兄様ァァァ!」
ルシアは身体から血の気が引き、全身から体温が奪われ無くなっていくのをかんじていた。
「回復薬作っておいてよかった。
ルシア、水鉄砲頼むぞ。」
「ッッッ!!」
あまりにも、あまりにも冷静に。日常会話の様な、抑揚も無く、焦りもない声に思わず怒りのままにルシアはリゼルを睨みつける。
やろうとしていることは分かる。
回復薬を水鉄砲で兄様にぶつけるのだ。
擦り傷、切傷じゃ無いんだぞ。
回復薬なんてほとんど使ったことはないがアレを見て回復薬を使おうとはナラナイダロ!
「リゼル様!!
こんッ……こんな……こんな時にッッッッ!!!」
ルシアは激昂した。今まで生きてきたなかでここまで他人に怒りを覚えたことはなかった。
「ほらっ。早く。私たちもルークに加勢するぞ。」
全く危機感なくこう言い放つリゼルに対して、ルシアは怒りを通り越して違和感を覚えた。
どちらにせよ、何かしらの援護はしないといけない状況であると思い直し、ルシアはリゼルに従うことにした。
「リゼル様、打つですっ。」
「はいよ。」
ルシアは一瞬で目を奪われてしまった。
リゼルの取り出したソレは、まるで深き湖の見えない底の蒼さをそのまま取り出したかのような、夜明けを予感させる空の碧さを切り取ったような、とても言葉にはし難い、深く、暗く、恐ろしく、美しい青い色をしていた。
「ルシア?」
「あっ、いきます。」
ルシアは大きめに水鉄砲を作る。リゼルはそこに回復薬と語る何かを混ぜる。
水鉄砲は順調に腕を切り落とされかけているルークへと届けられた。
ルークに背後から水鉄砲を浴びるのが見えた。
この距離からでも腕が見慣れた位置に戻ったのがハッキリと見て取れた。
リゼル以外、この状況に理解が追いついていない。
ルークもルシアも、ゴブリン達もだ。
「さぁ、ルシア。ルークと共にゴブリンを倒すぞ。
商人さんの護衛忘れずにな。」
リゼルは固まるルシアに気安く、変わらず声をかける。
まるで当たり前の日常の様に。
後の世で水の女神と称されるルシアはこの時の事をとても衝撃的だったと、幾人の人々に話している記録が残っている。
「本当に何を言っているのか理解し難かったし、本当に何が起きたのか理解するのに時間を要しました。
…ただ、この要した時間のおかげでこの後も続く、あの方の数々の奇跡と呼ぶべき所業を理解する必要は無い事を理解できたんだと思います。」




