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(仮)彼女と僕の奇妙な日常  作者: MOH
『 4月 突然の来訪者 』
8/14

【煉獄亭】

「なんだか物騒な名前のお店だね」


「『煉獄亭』が?」


「だって、お店のなかで焼かれそうでしょう?」 もしかすると、髪の毛が炎になったりして。


 彼女は訝しげな表情の僕を見て、顎をクイっと上げて得意げな顔をし、右手の人差し指を左右に振りながら「チッチッチ」と効果音を付け加える。「エムくんは、キリスト教のことを知らないの?」


 うちは代々、仏教徒ですが、何か? 自分の家がどこの宗派なのかも知らない、葬式仏教ですが。


 僕が、どう答えようかと考えていたら、彼女が胸をそらすようにしてこちらを向く。

 去年の秋から彼女と一緒にいる時間が増え、彼女の癖も少し分かるようになってきた。

 このポーズは、これから彼女の講義が始まる時間。

 お店の予約時間を過ぎているけど大丈夫?

 こんな路地裏で講釈を聞かされるの?


「では、エムくんの後学のためにもお話ししましょう。そもそも煉獄というのは、カトリック教会では天国に行けなかったけど地獄にも墜ちなかった人が行く中間的なところとされています。苦罰によって罪を清められた後、天国に入る手前のところという位置づけです」


「ふーん、要は中途半端なカトリック教徒が亡くなったら、天国に行く手前で足止めされているところ?」


「中途半端っていう言い方はどうなのかなぁ? とにかく天国でも地獄でもないところよ」


 彼女も詳しくは知らないらしい。

 意地悪をしてもう少し質問をしようと口を開き始めたところで『煉獄亭』のドアが開き、赤毛のカールされたセミロングに赤いセルフレームを掛け、バブルスの厚底を履いたメイド服姿の小柄な女の子が、お店から出てきた。

 パリッとしたブラウスの胸元がキツそう、生地がパンパンになっている。このお店の制服?

 彼女は洋食屋さんに行くと言っていたよね。このお店はメイドカフェ?


「失礼ですが、ご予約のエム様でしょうか?」

 メイド服姿の女の子が彼女に聞いてくる。


「はい、エムの名前で予約した2名です」

 彼女が僕の名前を使ったのかな? なぜ自分の名前を使わなかったのだろう。


「お待ちしておりました。よろしければ、お入りください」

 彼女とメイド服の女の子を交互に見ていたら、彼女から腕を引っ張られた。


「エムくん入ろ、入ろ。私、朝が早かったから、お腹が空いたの」

 そう言えば彼女は今朝(けさ)、どこかから帰ってきたみたいだけど、どこへ行っていたのだろう。


「エムくんの名前で予約をしたから、今日はエムくんが主役よ。遠慮せずに入って、入って」


 主役と言っても彼女と僕の2人だけだから、主役も何もないと思うけど。それを突っ込むと、彼女からまた『細かい』とか言われそうなので引っ張られた腕をそのままにして、お店の中に入って行った。


(つづく)

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