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(仮)彼女と僕の奇妙な日常  作者: MOH
『 4月 突然の来訪者 』
6/14

【人物観察】

 彼女と僕は、春の風が(かす)かにそよぐ陽当たりの良いベンチでボーッとしていた。

 正確にいうとボーッとしているのは僕だけで、彼女はスマートフォンに何かを忙しく打ち込んでいる。

 ココは、30分に一本しかバスが来ないバス停。

 まさか東京の公共交通機関が、こんなに不便だとは思わなかった。

 ベンチの前を時々、見たことのない外国のクルマが通り過ぎる。

 知らないクルマが通り過ぎるのを見ていると、やっぱり東京なんだなとは思う。

 バスを待つ僕たちには不便だけど。


 バス停の時刻表と同じ時刻に、乗客が数人しか乗っていないバスがやってきた。

 なるほど、乗る人が少ないから30分刻みなのか。

 彼女が先に立ってバスに乗り、僕は2人分の折りたたみ椅子を持ってバスに乗り込む。

 合宿所という名のオンボロビルから出掛けるとき、玄関の外に折りたたみ椅子が置いてあるのに気がついた。

「エム君、よろしくね」

 彼女から目的語の無い依頼を受けたけど、その視線を見れば言わずもがな。

 僕は「了解」とだけ応え、2脚の折りたたみ椅子を担いでバス停まで辿り着いたんだ。


 出掛けたのが中途半端な時間だったのが良かったのか、バスと地下鉄を乗り継ぐ銀座までの道程(みちのり)は、車内が空いていて折りたたみ椅子を運ぶのが邪魔にならなかったのは幸い。

 地下鉄銀座駅に着くと、彼女は迷うことなく銀座四丁目の交差点口から地上に出て、あたりを見回す。

「日曜日だから、ちょうど良いでしょう?」


 そうか、今日は日曜日か。

 大学が始まっていないから、曜日の感覚が分からない。

 長い春休みが続いている。このままずっと休みだったら良いのに。


 歩行者天国の道路に折り畳み椅子を開いて、人物観察を始めることにする。

 持ち込みの椅子なので、気をつけて歩道に置き、歩行者天国を歩く人たちの人物観察スタート。


 銀座を歩く人たちを見ていると、うしろから見られている気がする。

 誰かが見ている? 誰? 少し気になるが、隣に座る彼女がシステム手帳に黙々とメモを書き留めているので、気にしないことにした。

 相変わらず、こういう時の彼女の距離は近い。

「椅子、少し離そうか?」


「エムくん、私のこと避けているの?」 滅相もありません。美少女(大学生になったから美女? ちょっと違う感じもするけど)が隣に座っているだけで、誇らしいです。

 彼女のことを見ながら通り過ぎていく人も多い。


「いや、折り畳み椅子に並んで座っていると、交通量調査をしているみたいだなと思って」


「それ、いいんじゃない。次からカウンターと腕章も持ってこようよ。(どこにそんなものがあるの?) そうすれば、どこに椅子を置いても怪しまれないよ。皇居の前でも大丈夫」

 彼女は皇居がトラウマにならなかったの? 受験の時、あんな目に遭ったのに。


「それとね、一人で座っていると変なおじさんが声を掛けてくるから、エムくんはその防波堤。気にしなくて良いからね」

 なるほど、人ではなくて防波堤ですか。了解です。

 彼女は口を動かしながらも、目に付いた通行人を素早く見取り、システム手帳にその人物の特徴をメモしている。

 僕はたまに珍しい人(そんなカッコウをして恥ずかしくないの?みたいな人)を見つけて、たまにメモをする程度。

  しばらく人物観察を続けていると正午を過ぎ、どこからともなく食欲をそそる匂いと共に数台のキッチンカーが現れた。


「エムくん、お腹空かない?」


「少し空いたかな」


「ノリが悪いなぁ。健康な男子だったら『腹減ったぁ、メシは? メシはどこ?』って言うでしょう?」


 そうか、彼女は一人っ子で、同い年の男子を高校のクラスでしか知らないから、その発想は小説かアニメの受け売りだね。部活にも入っていなかったし。

 僕たちの世代がみんな腹っぺらしだったら、外食産業がもっと儲かっているはずだけど。

「じゃあ、どこかへ食べに行く? 銀座は初めてだからお店は分からないけど」


 待ってましたと言わんばかりに『仕方がないなぁ』という顔をしてから、美少女スマイルを見せつける。彼女は顔の表現が豊かで、コロコロと表情が変わる。思わず見とれていると、だんだんと目元が険しくなる。

「ナニ? ボケーッと人の顔を見ているの! お昼ごはんをどこで食べるのか?でしょう。エム君がノーアイデアなのはお見通しよ。ほら、どのお店が良いと思う?」 

 彼女がシステム手帳の中から、折り畳んだ紙を取り出す。

 渡された紙を開いてみるとA4サイズに印刷された銀座マップに、手書きでお店とその情報が書き込まれていた。


(つづく)

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