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(仮)彼女と僕の奇妙な日常  作者: MOH
『 4月 突然の来訪者 』
11/14

【3万円】

 テーブルに置かれた料理に、また驚く。

 パイナップルが乗ったポークチャップと、彼女がオーダーしたパン。


「えっとー… これ、頼んでいませんよね?」 思わず、言葉が口に出る。


「はい、オーダーの調理に時間が掛かっており、お店からのサービスです。申し訳ありません」

 メイド服の女の子が深く頭を下げる。


「エムくん、お店からのサービスだから謹んで受けましょう。女の子を困らせてはダメよ」


 彼女の言葉を聞いて、女の子はフロアに戻って行く。

 いくらお店のサービスだといっても、彼女と僕がオーダーした料理の金額をとっくに上回っている。

 だんだん心配になってきた。

 彼女はポークチャップを器用に切り分け、肉の上にパイナップルを乗せて口に運ぶ。


「これ、サービスだよね? お金、取られないよね?」


 彼女はそれには答えず、ポークチャップを口に運んだあと、システム手帳に何かを書き込んでいる。

 レースのカーテン越しに見える窓の外が、だんだんと暗くなってきた。

 そう言えば、彼女と僕がお店に入ったあと、誰もお店に入って来ない。

 他にお客さんが来ないのは、ランチタイムが終わるギリギリにお店に入ったから?


 そんなことを考えていたら、厨房からシェフハットを被った恰幅の良いオヤジさんが出て来た。

 オイオイ、シェフが出て来て、何ごと?

 テーブルの前でシェフハットを取り、頭を下げる。


「食材が無くなりまして… 急いで百貨店の地下で買ってきます。お店の現金を金庫に預けたばかりなので、お金を貸して頂けませんか。それをお勘定にしてもよいのですが…」


 何! いきなり?


 彼女にどうするのか聞こうとすると、彼女が先に口を開く。

「本日の主役、エムくんが決めてよ。サービスで出された料理は美味しく頂いたから、このままお店を出ても良いし、困ったシェフさんにお金を貸して食材を調達してもらい、あらためてオーダーした料理を頂いても良いのよ」


 これだけ食べておいて、お金も払わずにお店を出るのは気が引ける。

 返して貰えるのなら、お金を貸そうかな? 今日のお勘定分くらい渡せば良い?


「いくらお貸しすればよろしいのですか?」


「とりあえず、3万円ほど」


「えっ!」


「お店として買う食材が僅かな金額だと、百貨店側から『あの店、危ないのかな』と思われて、いざという時に掛け払いが出来なくなりますから」


 銀座だとそういう取引もあるの? よく分からないけど。

 昨日、2万円をピザ代の立替に支払い、財布の中にまだ3万円あるけど、これで上京する時に貰った、餞別が全部無くなってしまう。

 料理も美味しいし、お店が逃げるわけじゃないから貸すとするかな。


「3万円ですね。一応、借用書を書いてもらえますか?」


 用心してシェフにそう言うと、シェフはポケットから『3万円』と書かれた借用書を取り出した。

 手際が良すぎるけど…


(つづく)

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